君はロックを着ることができるかー「THE SAPEUR(サプール展)」 前編

アートな場所

こんにちは。
先日高速道路を走行中、大型で非常に強い台風…じゃなく、睡魔が襲ってきまして、駆け込んだサービスエリアで眠気を覚ます曲がないかと必死に探していたところこの曲にたどり着いたマウスです。

[とんちんかんちん一休さん(作詞:山本譲久、作曲:宇野誠一郎]

アニメ「一休さん」…皆さん知っていますか?
私が幼少の頃に見ていたアニメの中でも最古の部類に入るのですが、1982年までの放送だったようですからどうやら再放送だったようです。

今更ながら、
「好き好き好き好き好き好き 愛してる」
「わからんちんども とっちめちん」
ってなかなかロックな曲だったんですね。
歌詞に「南無」って入れてここまでポップなメロディに仕立てあげている曲ってこれだけじゃないかなと思います。

ロックと言えば先日、ショッピングモール内の展示スペースで開催されていた「THE SAPEUR(サプール展)」を観に行ってきました。

どうですか、いい笑顔でしょう。
ただ、今回は展覧会を語る前に少しこれが催された「場所」について触れたいと思います。

実はこの展覧会、いわゆる美術館と呼ばれるようなきちんとした施設ではなく、皆さんご存知のショッピングモール「イオン」の展示スペースで開催されました。

私も普段からここには買い物に行くのですが、展示スペースといっても特段専用に設けられたものではなく、近頃の消費社会の中で、催事に合わせ、ちょっとした展示品が陳列される程度の認識でした。
ただ、今回のイオンのような大規模ショッピングモールでこのような社会性の強い本格的な展覧会が催されているイメージはなかっただけに、これを知ったときは大変驚きました。

…ところで、皆さんはショッピングモールなどの「商業施設で展覧会を実施する意味」についてどう思われるでしょうか。
賛否分かれるところ(というかそんなこと考えたことない人が大勢)だと思いますが、私はアーティストが自立し、美術分野を今後さらに盛り上げていくには、本来の美術館での展示に加え、このような商業施設とのコラボレーションも必要だと考えています。
そこで、本ブログ前編では、THE  SAPEURの中身についてご紹介する前に、この意味について考えてみたいと思います。

このイオン、結構歴史が古く、20年以上は運営されているとの事ですが、最近は近くにできたゆめタウンなど競合店の影響もあり、かなり下火になっていたようです。
イオンという全国チェーンの画一的な販売と広報指針があるようなところで、今回のように1店舗だけ、しかも割と広報戦略に影響を与えるような強いメッセージ性のある展覧会コンセプトを打ち出していけたことは、私としては単純に組織の柔軟性としてすごいなーと感じました。もしかしたら、こういう切羽詰まった状況の中から現状を打破するストリームが生まれるのかもしれませんね。

ちなみに私が見た展覧会の主催者は株式会社サロンモードという地域のアパレル企業の専務さんだそうです。
https://www.jobcafe-saga.info/sagasuto/%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E3%82%B5%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%89.html

この方、「枠にとらわれない美術館」をテーマに、高尚なイメージを持たれがちの美術の敷居を下げ、日常の中にアートを織り込むことを試みたそうで、コンセプトは「ショッピングカートがこの美術館エリアにあったり、買い物袋を提げたまま画を眺めたり、当たり前の生活の中にアートを存在させること」だそうです(驚)

また一方でこのような事も述べています。

「アート作品の売買がまだ一般的とは言いにくい日本においては、作家たちもまだ表立った活動がしにくい現状がある。『実業家である自分たちがビジネスとして成り立つ仕組みを考えてアーティストがもっと作品を世に出しやすい環境を整えていかないといけないと思う』と。」

確かに全世界のアート市場は年率で平均6%伸びており、市場規模は推計674億ドル(約7兆5000億円)に達したと前に新聞記事に出ておりましたが、市場トップ3はアメリカ、イギリス、中国。この3ヶ国で総売上高の84%を占めています。
そのうちアメリカは世界最大の美術品市場として規模を毎年2%ずつ拡大しており、約44%の世界市場シェアを持っているそうです。(出典:The Art Basel and UBS Global Art Market Report)

ちなみに日本はというと2,460億円程度で全体の3%ほどしかありません。

ここに関しては多様な意見があると思いますが、やはり私はアーティストが自立的に国内で活動を続けていくには、かなり劇的に市場を盛り上げていかないといけないという課題が浮き彫りになっているような気がしています。

もう本ブログで言いたいことが出てきているような気がしていますが、あらためて「商業施設で展示を行う意味」は何なのでしょうか。
一言でいうと、「アート作品の市民開放」だと私は考えています。

もちろん、文化は後世へも受け継がれていかないといけないものでもあるため、繊細な日本画など、美術館で保管・保護されるべき作品も多くあるとは思いますが、日本全体が悲観的になりつつある現代社会において、アート作品という少し世ばなれ(?)した要素を市民生活に流し込むことで、それが巷でイノベーションと呼ばれる成長や盛況さの源泉になる可能性は大いにある感じています。

商業施設というそこに集う人たちの思考や財布の紐も少し緩い状態で、アートを「あ、私の家にもこれがあったらいいな。これ欲しいかも。」と気軽に想像を巡らせることができる「場所」の提供ーこれこそが一番重要な役割なのかもしれませんね。

ちなみに商業施設(百貨店)での文化事業は1904年の三越誕生にはじまります。この頃は余った展示スペースを貸し出す役割のみだったようで、実際の企画は新聞社などの大手メディアが中心でした。(そこはあまり今と変わりませんね。)
本格的に百貨店自身が展覧会の企画に関わってくるのは1975年の西武美術館(その後、セゾン美術館へ改名。1999年閉館)まで待つことになります。
※参照:志賀健二郎 著「しんぶん堂 『百貨店はなぜ展覧会を行うのか―百貨店の展覧会』」https://book.asahi.com/jinbun/article/12873266

最後に、三越、西武美術館の創業に大きな影響を与えた2人の言葉を記して終わりたいと思います。

・これまでのやり方は根本的に変えなければダメだ。自分が経営を引き受け、面目を一新して近代的な経営にしてみせる。[日比翁助 三越創業者—「デパートメント・ストア宣言」]
※出典:山口昌男 著「『敗者』の精神史」

・作品収納の施設としての美術館ではなく、植民地の収奪によって蓄積された冨を、作品におきかえて展示する場所でもない・・(中略)・・だから美術館の運営は、いわゆる美術愛好家の手によってでなく、時代の中に生きる感性の所有者、いってみればその意味での人間愛好家の手によって動かされるべきです。[堤清二 西武美術館創業者―「時代の根拠地」]
※出典:中島水緒 著「美術手帖 『西武美術館/セゾン美術館』」

三越は翌年早々に主要紙に初めての1ページ広告を掲載するなど、新聞広告や雑誌を使って大々的に広報活動を展開、多様な商品をとり揃え文化的催しを開催するなど、百貨店が文化の発信地であることを強烈に印象付けました。
また、西武美術館は当時私設美術館としてはめずらしく、自館の学芸員を擁し、時代精神の根拠地という理念を掲げ、先鋭的な企画展を数多く実施しました。

両者とも、その時代を変えようと奮闘した傑物であることには違いありませんが、根本にあるのは
「いかに市民目線であれるか。」
「いかに柔軟であれるか。」
ということにあるのでしょう。

ちょうど一休さんがとんちで無理難題を解決するアニメが放映されてから10年後にできたイオンという場所でのアート展示を見ながら、いつの時代も何かを変えていく気概と行動力の重要性についてあらためて考えさせられました。

杉浦非水《三越呉服店 春の新柄陳列会(三越)》1914年 愛媛美術館蔵

少し長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
前編はこの辺で。後編はTHE SAPEURの内容について触れていきたいと思います。引き続きよろしくお願いします!

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