「ガラスの街とやま」で体感する「ガラスの先」にある現代社会の多様性 富山市ガラス美術館

アートな場所

こんにちは。富山県、3館目。今日から真面目に美術館紹介です。(注:過去2回が真面目じゃなかった訳ではありません。良い意味で遊んでましたが)

…恐らく、今日ご紹介するこの手の美術館、これまでの都道府県にはなかったように思われます。それほど富山県の風土、文化が生んだユニークな美術館だと言えますね。そしてここ、美術館館長さんも良い意味で他館に先駆けてユニークな人選をされていることでも有名です。そんな富山が誇る美術館の1つ、早速ご紹介する前に、今日は順番を変えてあえて先に以下の美術館公式動画をご覧いただければと思います。

→今日はガラスの美術館です。美しいガラス…もはや万国共通、これを嫌いな人っていないと思います。(ガラス恐怖症の人以外)…ということで、今日はそんなに多くを語らずガラスの余韻に浸っていただければ幸いです。

このブログで紹介する美術館

富山市ガラス美術館

・開館:2015年
・美術館外観(以下画像は美術館HP、県観光協会HPより転載)

※隈研吾さんが霊山、立山連峰の氷の岩脈をイメージして設計されたそう。

・館内も大変ユニークな造形になっていますので掲載しておきます。

・場所
富山市ガラス美術館 – Google マップ

薬とガラスと富山の歴史

・古くから薬の生産で知られた富山県、薬瓶の需要でガラス生産も盛んでした。そして1991年、富山市の市政「ガラスの街とやま」事業の一歩として、ガラス作家育成機関である富山ガラス造形研究所などを設立。それ以降、30年以上にわたってガラス職人の人財育成に力を入れて「ガラスの街とやま」づくりに励んできました。

(参考)富山市の観光公式サイト「なぜ富山市はくすりとガラスの街なのか」

→富山の薬の歴史は古く300年前まで遡ります。富山藩2代目藩主前田正甫が江戸城に参勤した折、腹痛になった大名に薬を服用、驚異的に回復した出来事がきっかけとなり「越中富山のくすり」の名が日本全国に広がったんですね。当時は今のようにメディアが発達していなかった時代、それがどれほど脅威的な事件だったのかそれだけでも想像できますね。

そんな薬の一大拠点として全国に名をはせた富山、明治・大正期には、薬の周辺産業としてガラスの薬びんの製造が盛んに行われるようになり、全国のトップシェアを誇りました。戦前には、富山駅を中心に溶解炉をもつガラス工場が10社以上あったそうです。

「ガラスの街とやま」で体感する「ガラスの先」にある現代社会の多様性

・富山市はこれまで30年以上にわたり、「ガラスの街とやま」として人材の育成、産業化の推進、芸術振興を施策の柱に据え、富山ガラス造形研究所、富山ガラス工房、そしてガラス美術館の本格的な3つの施設を拠点に活動を展開。

館長の土田さんは「ここ2年、来館された方々からいただいた感想の中でも、一番目に耳にしたのは、『まるでガラスじゃない!』という一言です。」と述べられています。また同様に「ガラスは透明、ガラスは壊れやすい、ガラスは吹いて作るもの…、そんな誰もが思い浮かべるイメージを、いい意味で裏切っているのが、グラスアートの現状。近年は現代アートの文脈で制作される作品も少なくなく、グローバル化の中で、「ダイバーシティ」がキーワードとなった現代の人間社会の様相と非常に良く似ているように思います。」と述べられています。

主なコレクション

グラス・アート・ガーデン

・現代ガラス作家の巨匠デイル・チフーリ(Dale Chihuly)氏によるインスタレーション(空間芸術)作品を展示。
<デイル・チフーリ>
 

コレクション展示

・30年にわたり富山市が収集してきた、ガラス美術館所蔵の現代ガラス作品を展示。社会の変化や次々に生み出された新しい価値観に呼応するような作品群が集結しているとの事。
<田嶋悦子>

<西悦子>

<パヴェル・フラヴァ>

グラス・アート・パサージュ

・富山ゆかりの20名の作家たちによる作品およそ50点を2階から4階のパブリック・スペースに展示。
<冨樫葉子>

<富山ゆかりの20名の作家たち>

→コンセプトや展示作家についてはコチラ
グラス・アート・パサージュ(富山ゆかりの20名の作家たち)

その他、収蔵作品など検索したい方は以下美術館HP検索サイトから探すことができるようです。掲載しておきます。
〇富山市ガラス美術館収蔵品検索:https://toyama-glass-art-museum.jp/collection_search/

館長:土田ルリ子さん

・そんな素敵なコレクションを有する富山市ガラス美術館。ホームページを見ると館長のお顔がどーんと出てきます。しかもいまだ美術館界隈も例にもれず日本の村社会、館長は男性が優位という中、こちらは女性が筆頭です。民間企業ならいざしらず、公立美術館でそんな館長のお顔がドーンと出てくるのは稀だったので良い意味で驚きました。館長の土田さん自ら富山と富山のガラス文化を世界へ発信していこうとする意気込みが伝わってくるようです。

※ブログ「ワタシゴト」より転載:https://watashigoto.net/101796

→良い表情ですね。大変失礼ながら1967年生まれ…表情1つとっても大変お若いです。そんな土田さん、柔らかい雰囲気とは裏腹、ご経歴はとんでもなくバリバリのキャリアウーマンです。

<土田るり子さん略歴>
・1967年東京都出身。
・1992年慶応義塾大学大学院文学研究科哲学専攻美学美術史分野修了。
・1992年からサントリー美術館勤務。
・2010~2020年3月まで同館学芸副部長。
・2020年4月より富山市ガラス美術館副館長。
・2022年4月より現職。
エミール・ガレや薩摩切子など、ガラスにまつわる展覧会企画多数。2009年「ガレとジャポニスム」展(2008年開催)の功績により、財団法人西洋美術振興財団賞「学術賞」ならびに「第30回ジャポニスム学会賞」受賞。ICOM GLASS理事、日本ガラス工芸学会理事。

(付録)ガラスの天井

・最後に富山市ガラス美術館と本館女性館長の土田さんがせっかく出てきましたので、よく日本社会で言われる「『ガラス』の天井」について言及しておきたいと思います。

※ガラスの天井とは…英語の「グラスシーリング」(glass ceiling)の訳で、組織内で昇進に値する人材が、性別や人種などを理由に低い地位に甘んじることを強いられている不当な状態を、キャリアアップを阻む“見えない天井”になぞらえた比喩表現。もっぱら女性の能力開発を妨げ、企業における上級管理職への昇進や意思決定の場への登用を阻害する要因について用いられることが多く、ガラスの天井の解消を図ることが、職場における男女平等参画を実現する上で重要な課題となっています。

ガラスの天井の語源

・「ガラスの天井」(グラスシーリング)という言葉が、自由・平等の国アメリカで女性のキャリアパスを阻む見えざる障害を意味する用語として流布し始めたのは、1980年代後半。1991年にはアメリカ連邦政府労働省がこの表現を公的に使用し、女性やマイノリティーの組織内での昇進がガラスの天井によって妨げられていることを認めました。

国内の状況

日本ではキャリアパスにおける男女格差を改善するために、1986年に男女雇用機会均等法が施行。1999年4月施行の改正法で募集・採用、配置・昇進、教育訓練での差別に対する努力義務が禁止規定に、ポジティブ・アクション(積極的改善措置)も認められ、2007年4月施行の改正法では間接差別禁止の規定が入ります。こうして法の上では平等が保障され、各企業においてもいまや昇進・昇格に関わる制度やルールに男女の制限はほぼありませんが、能力さえあれば誰でも“上”を目指せる条件が整っているようにみえて、実際の職場環境にはまだそれを阻む周囲の無理解や偏見、女性への配慮に欠ける労働慣行などが残されているのも事実です。

原因は何か――高精度労働省の調査で最も多い理由は、「現時点では必要な知識や経験、判断力等を有する女性がいない」で54.2%。以下、「将来管理職に就く可能性のある女性はいるが、現在、管理職に就くための在職年数等を満たしている人材がいない」(22.2%)「勤続年数が短く、管理職になるまでに退職する」(19.6%)の順でした。日本の企業社会では、昇進・昇格の際にガラスの天井にぶつかるというよりも、それ以前に結婚や出産・育児などが原因でキャリアパスから離脱せざるを得ない女性が多いことが、女性の管理職登用を妨げているのが如実に表れています。(ウェブサイト:日本の人事部より抜粋)

→近年は日本の競争力強化の面でも欠かせないとの意見が増えつつある女性の力。そもそも日本の全就業者に占める女性の比率は40%余りで、欧米と比べて遜色はないそうです。課題は、その中からリーダーになる人材をどう育成していくかで、女性だけでなく若い人からお年寄りまで老若男女皆が考えなければならない課題なのかもしれないなと、富山市ガラス美術館を調べながら考えていました。

一方でそのような意味ではまさにギャグではなく、これはもしかしたら偶然でもなく、「富山市ガラス美術館」の館長さんが女性で立派に富山市と富山市のガラス文化を担い、発信されている姿というのが、「ガラスの天井」を突き破る1つのアート作品になっているとも言えるのかもしれませんね。(富山市ガラス美術館…まさかそんなことまで考えて館長選任していたとしたら…拍手喝采です)

そんな今後の日本社会を占うことができるかもしれない、富山市ガラス美術館、皆さんもぜひ足を運んでみて下さい!

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