天心ゆかりの地、明治時代にティファニーに就職した鋳金士と100年以上幼児教育に携わる企業が集めたコレクション群 福井県立美術館

アートな場所

こんにちは。今日から福井県です。
福井県と言えば…覚えてくれていらっしゃるでしょうか?

…そう、岡倉天心の両親の故郷、東京美術学校事件で下野後、五浦海岸の景色に魅了され終の棲み家に決めた発端はその海岸線が両親の故郷:福井県の海岸線に似ていたからではないかと(マウスの予想ですが)。その概要については茨城県天心記念五浦美術館のブログ記事の中で述べました。
そんな福井県、どんなコレクターと所蔵品があるのでしょう。早速ご紹介したいと思います。

このブログで紹介する美術館

福井県立美術館

・開館:1977年
・美術館外観(以下画像は美術館HP、県観光協会HPより転載)

・場所
福井県立美術館 – Google マップ

天心ゆかりの地で、明治時代にティファニーに就職した鋳金士と100年以上幼児教育に携わる企業が集めたコレクション群

・美術館のHPに福井県美術館初級者の方向けのパンフレットが掲載されていました。まずはそちらご一読ください。→福井県立美術館_概要

コレクション方針について

①初期院展を中心とした岡倉天心ゆかりの画家たち
②「北荘・北美」美術運動※1の関係作家
③水墨画の一派・曽我派※2(越前の戦国武将:朝倉氏に代々仕えた絵師)
④江戸時代初期の絵師:岩佐又兵衛※3
⑤小野忠弘(現代美術作家)※4、三上誠(日本画家)※5 など

※1 北荘画会・北美文化協会の美術運動のこと。美術界の本流とは異なるフィールドでの新しい表現形態を持った作品が生み出され、地方における特異な美術運動として今も評価されている。特に、初期の「北荘」からは、福井の洋画黎明期において重要な役割を果たした作家が多く輩出され、昭和23年(1948年)以降の「北美」からは、既成の表現にとらわれない個性的な作品が生み出されるとともに、若狭を拠点とする「若美」(若美作家協会)の美術運動も生まれた。
◆北荘画会
・北荘画会は、大正11年(1922年)、大正期新興美術運動の中心人物であった木下秀一郎の未来派論に賛同するかたちで、福井の土岡秀太郎を中心に堀田清治らによって北荘画会が結成。その後、北荘は、フォービズムや海外超現実主義の作品展を開催し、シュールレアリズム(超現実主義)をいち早く紹介。若い世代に衝撃を与え、前衛精神が受け継がれていったが、昭和12年(1937年)に活動を終える。
◆北美文化協会
・戦後、北荘画会の伝統を受け継いで、昭和23年(1948年)に北美文化協会が設立。設立会員は木水育男ら教育関係者が多く、創造美育運動と呼ばれる児童画教育運動を推進した。北美主催の夏期講習会には、阿部展也や岡本太郎等の日本の現代美術を切り開く作家とともに、毎回新鋭の美術評論家も招かれ、単に実技の講習だけでなく、広く現代美術の諸問題が討議され、これを通じて多角的に現代美術の動向をとらえることができた。こうした活動を経て、個性的作品を生み出す作家を多く輩出。八田豊、橿尾正次、山本圭吾、五十嵐彰雄らが個を貪欲に追及し、独自性のある表現を獲得し、全国的あるいは世界的にも評価される現代アート作家となり、現在も活躍。

※2 曾我直庵の子孫、門人で形成される桃山時代の画派。同時代の各派と並び,大画面障屏(しょうへい)画を手がけた。子の二直庵,孫の三直庵らは武家好みの鷹図を得意とした。

※3 江戸初期の画家。摂津国伊丹城主:荒木村重の子。2歳のときに父は織田信長に敗れ、母は六条河原で処刑。又兵衛はからくも乳母に救われ、京都で育つ。家門の再興をあきらめて母方の姓といわれる岩佐に改姓、師承関係は明らかでないが、画家として身をたてることになる。元和(げんな)年間(1615~24)の初めごろ越前福井(北之庄)に移って藩主:松平忠直の厚遇を受け、皮肉な風刺を利かせた和漢の人物画や極彩色の絵巻物など個性的な作風を展開。1637年(寛永14)、妻子を残して福井をたち、江戸へ出て川越東照宮の『三十六歌仙額』(1640)などを制作、そのまま江戸で没。ふくらんだ豊かな頬と長い顎という特徴をもつ豊満な美人画像の典型を生み、時様の風俗画にも新風を開いて、世に「浮世又兵衛」とうわさされた。

※4 大正2年(1913年)生まれの洋画家、彫刻家。昭和17年(1942年)、福井県三国中学(現:三国高)の教師となる。1950年自由美術家協会会員。日本国際美術展、サンパウロやベネチアのビエンナーレに出品。絵画、彫刻からジャンクアートを手がける。平成13年(2001年)逝去。88歳。青森県出身。東京美術学校(現:東京藝術大)卒。

※5 大正8年(1919年)生まれの日本画家。日本画の革新をめざし、昭和23年(1948年)、パンリアル美術協会を結成。1958年から福井大の講師。肺結核とたたかいながら独自の宇宙観を図式化した。昭和47(1972年)逝去。52歳。大阪出身。京都市立絵画専門学校(現:京都市立芸大)卒。

コレクションの軸

・そんな福井県立美術館、その成り立ちを見ていきましょう。コレクションの軸は以下の2つのようです。

岡島コレクション

・福井県大野市出身の岡島辰五郎氏が、明治40年(1907)の渡米から生涯をかけて収集した貴重な美術工芸品。岡島氏は、昭和32年(1957年)から翌年にかけて美術工芸品と美術館建設資金を福井県に寄贈。昭和33年(1958年)には県内初の美術館となる『岡島美術記念館』を開館、『岡島美術財団』が設立される。建物の老朽化等により昭和62年(1987年)に記念館が閉鎖された後は、コレクションは福井県立美術館に収蔵され、現在に至っているそうです。

岡島辰五郎の略歴

・明治13年(1880)
  旧越前大野藩重役 岡島七郎・きん夫妻の四男として、大野郡大野町水落(現大野市水落)に生まれる。
・明治30年(1897)
  東京美術学校鋳金科へ。大阪七太郎(藩営商店「大野屋」の代表者名)として入学。
・明治34年 (1901)
  東京美術学校卒業。
・明治 36年(1903)
  東京田端に鋳金工場設立。主にブロンズを制作。
・明治40年(1907)
  沢田宗山に同行してニューヨークへ出発。
・明治42年(1909)
  ニューヨークのティファニー社工場に就職し、主に鋳金原型の製造に従事。同時に現地のフリー・アート・スクール(夜間)に入学し、デザインと鋳造を学ぶ。
・明治45年(1912)
  ニューヨーク山中商会に入社。東洋美術の修理部門を担当。
・大正7年(1918)
  山中商会を退社。ニューヨーク市内で「日本美術商会」開業。
・昭和9年(1934)
  店舗をニューヨークの中心、マディソン街へ移転。
・昭和31年(1956)
  ニューヨークのオークションで収集した美術工芸品につき、福井県へ寄贈の申込みをする。
・昭和33年(1958)
  美術館建築資金として720万円を福井県へ寄贈、美術館建設開始。
・昭和33年(1958) 8月25日
  福井県立岡島美術記念館開館式にニューヨークより招かれ出席、福井県最初の美術館として公開。紺綬褒章を受ける。
・昭和37年(1962) 1月11日
  ニューヨークにて病没。

→明治時代にティファニー社に就職した日本人がいたのをご存知でしたでしょうか?これは19世紀後半のロンドンやパリの万博などをきっかけに、優れた技術による日本の工芸品は注目された結果によるもので、当時は日本の伝統技術を持った美術家は海外では大いに歓迎されたようです。そんな明治・大正・昭和を駆け抜け、生涯をニューヨークの古美術商として生きた岡島氏、晩年は、自らロールス・ロイスを運転する元気なおじいちゃんとして親しまれていたそうです。何だか現代ではなかなか見られない豪傑で微笑ましいストーリーですね。

ジャクエツ・コレクション

・1916年創業。敦賀市で100年以上幼児用教材、遊具製造販売を展開されている株式会社ジャクエツ(敦賀市)の名誉会長・徳本道輝氏が、40年以上かけて収集した美術コレクション。 絵画、彫刻、工芸とバランスよく集め、近・現代日本作家の重要コレクションとなっているそうです。
(→ジャクエツ、会社の名前だったんですね)

株式会社ジャクエツとは

・大正5年(1916)、初代社長徳本達雄さんがジャクエツグループの母体となる早翠幼稚園を開設。そこで使用する教材・教具を自前で考案・製造したことをきっかけに、幼児教育用品の製造直販事業へと展開。創業より100年の長きにわたり、幼児教育環境の向上と、幼稚園・保育園の最適空間を提案されています。

ジャクエツ社が目指すもの

なお、ジャクエツ社の目指すもの(コンセプト)として以下2つが印象的でしたので、こちらにも記載しておきます。

<ジャクエツ社が目指すもの>
・私たちは「未来はあそびの中にある」と信じています。これからも保育教材の企画・開発・製造を中心に、幼児教育のノウハウを活かした魅力的なまちづくりや、あそびと成長の研究に基づいた課題解決など、あそびを資源とした多角的な価値づくりで社会に貢献していきます。

<未来は、あそびの中に。>
偉大なる発明も、世界を変えた公式も、
あそびから生まれた。
あそびは、すべての創造の源です。
あそぶ力を伸ばすことは、未来を切り拓くこと。
想像力をのばす。 共感力をはぐくむ。ルールをまなぶ。
あそびから、こどもは無限の力を羽ばたかせていく。
あそびの環境に、あざやかな驚きを。
私たちは、未来をつくる仕事です。

→良いコンセプトですね。不覚にも美術館と関係ない、企業コンセプトにマーカーをしてしまいました。
(参考)株式会社ジャクエツHP:https://www.jakuets.co.jp/
※老舗にしてHPめちゃカッコイイです。

主なコレクション

<岡島コレクション>

     

→キラキラしてますね。日本近代工芸の逸品という感じです。

<ジャクエツ・コレクション>

・こちらは福井県陶芸館で開催された本コレクションの展覧会チラシの画像しかありませんでした(しかも現代陶芸品のみ)。ぜひ、皆さんも直接来館してご覧いただければと思います。

…最後は、岡倉天心もその光景を茨城県は五浦海岸に投影したであろう福井の美しい海岸線をご覧いただき筆をおきたいと思います。次回も福井県の、これまた本ブログにおいて超重要人物をコレクションする美術館です。引き続き本ブログ「絵本とアートと。」をよろしくお願いします。

※画像は福井県・福井市公式観光サイト「福いろ」から転載

(マウス)

コメント