君はロックを着ることができるかー「THE SAPEUR(サプール展)」 後編

アートな場所

こんにちは。マウスです。
先日、テレビのコマーシャルを見ていたら、「お風呂をこすらずに洗う洗剤」というものが宣伝されてました。(私もしらなかったんですが)お風呂はこすって湯あかを落とすものとばかり思っていた世代にとっては相当衝撃だったんじゃないかなと思います。まだうちでは試してないんですけどね。読者の中には使った方もいらっしゃるでしょうか、ぜひ感想をコメントして下さい。

この「こすらずに洗う洗剤」、主婦層を中心に昔から根強いリクエストはあったそうですが、その洗浄力と満遍なく塗布可能なノズルの開発がなかなか難しく、プロジェクトを立ち上げた日から商品化までに7年もの歳月がかかったとの事。確かに風呂桶って結構深いので、かがんでゴシゴシするの女性だと大変ですもんね。うちでは旦那さんのお仕事という家庭も多いんじゃないかと思います。私、そもそも「こすらない」という発想がなかったので、そんなところまで思いつきもしなかったのですが、もう少し美的センスを上げていきたいと痛感しましたw

…美的センスといえば、先日11/21のブログにて「THE SAPEUR(サプール展)」をご紹介するとお伝えしておりました、いよいよ今回は本丸の展示内容について書いていこうと思います。

SAPEURとは、植民地時代コンゴ共和国に端を発するファッションによる平和運動の一種で、本来憎むべき宗主国のフランスのファッションを自国の文化にミックスさせ、武力ではなく文化の力で社会を変えようとする動きのことです。
コンゴという経済的に貧しい国において、それに参加する人たちは月収の数か月分するブランドスーツを身にまとい、街を闊歩し自らの主義・主張をファッションを通じて発信します。写真家の茶野邦雄さんが撮影したこの1枚の写真が有名ですね。

※茶野邦雄写真集「THE SAPEUR」より転載

ただ1つ先に言います。
このTHE SAPEUR、残念ながらどんなに頑張ろうと、私(というか日本人)が本当の意味でこの笑顔について理解することはできません。

すいません、いきなり弱気…って訳ではなく、それは日本がこのSAPEURを標榜している人たちの国と比べて「平和すぎる」からです。
それはSAPEURを端的に表す言葉として「服が汚れるから争わない」という言葉に集約されると思います。

まずは話をこのSAPEURが生まれた国、コンゴ共和国について触れていきたいと思います。(注:コンゴ民主共和国もありますが別の国です)
※「コンゴ共和国」とは、アフリカ大陸中部にある共和制国家で、1960年にフランスから独立しました。1970年~1991年の間は「コンゴ人民共和国」という名の社会主義国でした。面積は34.2万k㎡(日本の約0.9倍)人口約552万人、首都はブラザヴィルで公用語はフランス語です。国境は北側でカメルーン、中央アフリカ共和国と、南側西部でアンゴラ、西側でガボンと隣接、南西部は大西洋に面しており、東側では「コンゴ民主共和国」と隣接しています。

人口552万人ですから、ちょうど兵庫県と同じくらいでしょうか。
ただここで注目いただきたいのは、兵庫県のGDP(国内総生産)が20兆円なのに対し、コンゴ共和国は1.2兆円だということ。兵庫県の約20分の1、日本のGDPが588兆円ですからそれと比べると500分の1の規模ということになります。

GDPで人の幸福が決まるわけでは決してありませんが、経済という側面で見るとコンゴ共和国は圧倒的に不利な立場にあるわけです。
よくSAPEURを語るときに言われるのが、「国民の平均月給は2万5000円。3割の人々が1日の生活費を130円以下で暮らす。その貧しさの中で、年収の平均4割を海外の高級ブランド服に使う、”世界一お洒落な男たち”」という言説です。

私もこれは間違った表現ではないと思いますが、”世界一お洒落な男たち”について少しでも理解するためには、このコンゴ共和国が置かれた歴史、現状について知る必要があると考えています。

同国は元々はコンゴと呼ばれる地域の一部から成り立っており、15世紀頃まではコンゴ王国の一体的な領域でした。16世紀にポルトガルによる征服を経た後に、19世紀のベルリン会議でベルギー領(現在のコンゴ民主共和国)とフランス領(現在のコンゴ共和国)とポルトガル領(現在のアンゴラ)に分けられました。

※NHK就活応援ニュースゼミ「1からわかる!“沸騰大陸”アフリカ」から転載https://www3.nhk.or.jp/news/special/news_seminar/jiji/jiji27/

このコンゴ地域もアフリカの他地域同様、アフリカ内外を巻き込んで現代にまで禍根を残すことになる欧米諸国のアフリカ分割の悪例だと言えるでしょう。

詳細は割愛しますが、コンゴ共和国も1920年にこのフランス領植民支配を抜け出すべく、社会運動家で現在でもコンゴ共和国の英雄として認識されているアンドレ・マツワを中心に原住民族および黒人差別反対の運動が広がります。そして今回語るSAPEURもこれに呼応する形で首都ブラザヴィルを中心に広がったという見方が有力との事。
欧米諸国のアフリカ植民地争いに巻き込まれたコンゴ人にとって、平和への想いは強く、この平和の象徴としてSAPEURが生まれたと言っても過言ではないでしょう。

フランスの植民地となったアフリカ諸国は他にもある中で、なぜコンゴ地域にだけSAPEURが生まれたのかは明確にはなっていませんが、恐らくフランスの人々が来る前から、コンゴ地域には自分たちのテイストや美的感覚があり、SAPEURが根付く土壌があったのだと茶野邦雄さんは語っています。
※参考:茶野邦雄 MONOCOインタビューより「世界一お洒落な男たちの『美学』」https://monoco.jp/article/sapeur-interview

現在の香港や新疆ウイグルなどの問題を見ても、古今東西、歴史は体制・反体制に分かれ、血なまぐさい争いがいずれかの地域で起きており、悲しい現実が世の中から消えることはありません。人間誰しもがそのようなことは決していけないと頭では解っていながら、これらが無くなることがないという現実に、私たちはこれらを解決することがいかに難しいかということに打ちひしがれます。

私は、世の中をより良い方向へ変えていくストリームを生み出していくためには、武力や圧政など強制的な力にものを言わせるのではなく人と人とが「笑い」を接点につながっていくことが重要だと感じています。
なぜなら過去の偉人たちを見てみても、そしてコンゴ共和国でいうアンドレ・マツワをとってみても、何かを変えようと力をもって先導した人たちは、最終的には弾圧、抑留などを経て悲しい結末が待っていることが少なくないからです。
力による改革はまた新たな対立を生み出すという現実です。

日本において「笑い」と言えば落語、漫才など幅広いジャンルがありますが、ここで落語界の巨人、桂歌丸さんと林家三平さんの平和に対する言説が載っていましたのでご紹介しておきます。

〇戦争と笑いの記憶 「平和だからこそ、人は笑える」―落語家・桂歌丸さん
https://kokocara.pal-system.co.jp/2016/08/01/utamaru-katsura-laugh-and-peace/
※取材/オフィスまめかな 取材・文/濱田研吾 撮影/坂本博和(写真工房坂本)

〇国策落語 “抑圧された笑い” 林家三平 長崎で高座
https://nordot.app/528052018018518113
※長崎新聞掲載(2019年7月28日)

この桂歌丸さん、林家三平さんのインタビューで個人的に感銘を受けた箇所を記載しておきます。

・“平和だからこその笑い”とも言えますね。私は、外交の専門家じゃないですよ。でも、笑いがないのは、平和でないということは、わかります。平和だからこそ、人は笑えるんです。(桂歌丸)
・落語は欲望や願望を押し切ろうとして失敗しちゃう人間の業を笑い話にしたもの。ところが国策落語は国のために貢献しようというプロパガンダ。他者の欲望を押しつけられる噺なんて、面白いわけがない。(林家三平)

話を戻します。ではSAPEURはどうか。
SAPEURは平和でない状況の中笑いを起こし、他者(フランス植民地支配)の欲望を押しつけられる前に、自分たち(コンゴ人)の欲望や願望を押し切ろうとして成功した物語です。ポイントのところアンダーラインで強調しましたが、本来SAPEURとは笑いのセオリーとはかけ離れた、壮絶な物語の上に成り立っているアート表現なのです。

つまり平和でない状況とは、本来は笑いが起きない環境の中、年収の4割ともいわれる衣装代に銭を投じ、ド派手な衣装を身にまとい街を闊歩することで半ば強制的に民衆を笑わせること、そして本来は憎むべき宗主国の影響の下、失敗が許されない状況の中において、逆に宗主国のファッションを自国の文化に取り入れながら間違いのない成功の道へと導こうとする強い信念を持つ表現のことなのです。

これがいかに大変で覚悟を要するのか少し想像してみて下さい。(私なんていじめっ子に良いところがあったとしても頑なに取り入れない卑屈な人間なんで到底無理ですw)

私は冒頭で、SAPEURについて日本人が本当の意味でこの笑顔を理解することはできないと言いました。それはこの笑顔の中にはいかなる武力をもってしても成し遂げられない強い信念とバックグラウンドがあるからで、私たちはこれを感じとれるほどコンゴが置かれた状況というものを身をもって体験していないからです。
少し悪ぶれた格好をしているあんちゃん達とは訳が違うのです。(全国のあんちゃん達ゴメンナサイ!)

派手な衣装だけではなく、その生き方までもがアートとなる。
THE SAPEUR、勉強になりました。

※茶野邦雄写真集「THE SAPEUR」より転載

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