即興性のなかに潜む罠ーバンクシー 天才か反逆者か 後編

アートな場所

こんにちは、マウスです。
このブログでは、絵本やアート情報・アーティストの考え方を中心にご紹介することで、読者の皆さんにとって、仕事や私生活における閉塞感の解決や、また、そのようなアート型発想を採れる人財育成のハウツーとして見ていただけたらと考えています。(今更ながらコンセプト載せてなかった!…)

先日当ブログの執筆者(11/3ブログ参照)のところのお子さん(3歳)とお喋りしていたのですが、既になかなか難しい概念の言葉を習得していて(「大げさ」、「わざと」、「そう言うだろうと思った」など)とても驚きました。執筆者の方と話をしていても「そんな言葉を教えた記憶がない」と話をしていたので、こういう難しい概念もなんなく身につけていく子どもの柔軟性、吸収力ってあらためてすごいんだなーと感じました。

言葉という意味では、残念ながら先日お亡くなりになられた志村けんさんが、今ではジャンケンのときに当たり前に使われる「最初はグー」の掛け声の生みの親だということが話題になりました。
他には明石家さんまさんもバツイチなど主に男女関係を中心に言葉を創作されています。
まあ、芸風の好き嫌いはさておき、こういう0から新しい言葉を生み出してきた偉人の多くは「笑い」をなりわいとする方が多いのも印象的ですね。
(参考:gooブログ「知ってた?実は有名人が流行らせた言葉ランキング」https://ranking.goo.ne.jp/column/3514/

ところでアートやアーティストはよく0→1を仕事にするものや人たちだと理解している方も多くいると思います。確かに、それはそれで間違いではないのですが、1→100、100→10000にする仕事をする人たちも何かを組み合わせ昇華し、また新たな発想を展開していくという点において、個人的には立派なアーティストだと考えています。(よく、日本人は0→1よりも1→100を得意とする人が多いと言いますよね)

そして今日、ご紹介するバンクシーもどちらかというと1→100、100→10000寄りのアーティストです。それはバンクシーが対象としている作品の多くが、資本主義社会や体制という従来からあるものをベースに、それを批判的に思考した作品であり、何もないところから「何か表現したい、自分を認めてほしい」という人間の根源的な欲求からきているアートとは少し異なるからです。

そのため、逆に言うと、バンクシーは1→100、100→10000という方向性の作品を作っているという意味において、日本人にとっても馴染みやすいアーティスト、アート作品だと言えると思います。

少し脱線しますが、では0→1の人間の根源的な欲求から生まれたアート作品の例は何かと言いますと、ずばりそれはこれです。
  
※ナショナルジオグラフィック「監修者が解説!ココが見どころ『世界遺産 ラスコー展』」より転載 https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/15/360768/121400015/

これらの作品は人間の根源的な欲求(「何か表現したい、自分を認めてほしい」)に端を発している0→1作品であり、バンクシーなどの1→100現代アート作品とは随分と性質が違うものだと言えます。これらの作品の話はそんなに遠くないブログで書いてみようと思いますが、アート系ブロガー(そんなジャンル?あるのか知らないですが)にとって、0→1のアート作品を書くよりも、1→100、100→10000のアート作品を書く方が、元々の1や100というベースを基準に書くことができるので圧倒的に簡単です。

では、アート作品としてみたとき、彼の作品は上述したラスコーなど先史時代の作品と比べて劣っているのでしょうか?

恐らく、その答えは、バンクシーでなければYES、バンクシーであればNOということになろうかと思います。

その理由は、彼があえて意識してメディア等で記事にしやすいアート作品を残しているという点に特筆できます。つまり、前回のブログで私はバンクシーのことを「即興性に特徴があるアーティスト」とご紹介したものの、それはあくまで彼が採る表現手法だけを切り取ってみた姿であり、アート作品というコンテンツの方にスポットを当てると、いかに大勢の人々に注目され、(私のような一般ブロガーから大手メディア媒体やアート系メディアマガジンにおけるまで幅広く)取り上げられるかという1点において、非常に綿密に計算しつくして作られた類まれな1→100アート作品なのです。

そういう視点で、私も非常に解りやすく書かれてあると感じている、以下のブログ記事を読んでみて下さい。

〇This is media 『バンクシーの作品29選!ネズミ・風船と少女・シュレッダー事件など有名作品を詳しく解説』
https://media.thisisgallery.com/20188939

この記事、バンクシー初心者でも大変解りやすく解説してあり、「バンクシーについてはこの記事を見てください♪」で本編終わってもいいのですが(怒られそうw)、せっかくこのブログを見てくれている稀有な読者の皆さんのために、私からバンクシー自身が発信した数々の言葉の中でも特に印象的な2つのメッセージを記載して今回のブログを終わりたいと思います。(網羅的な作品の解説は、それこそバンクシー自身の狙い通りか、This is mediaさん他大手マガジン記事はほんと良いものが多いので皆さんもググってじっくり眺めてみてください)

 

ではいきます。

[ディズマランド]
・ディズニーに対して何か言いたいことがあるわけではない。私は流行に敏感でもないから、単に何かが人気だからといって、それが悪であるとか空虚であるとは考えない。「ディズマランド」ブランドはディズニーに関するものではない。私たちはアートを作るということは自らをエンターテイメント産業の一部に入れるということだと受け入れるフレームワークに過ぎないのだ。そしてそのレベルに合わせて活動を行おうと思う。ただし、左よりにね。(バンクシー)

これはイギリスにおいて、2015年の8月21日から5週間限定で、バンクシー自身の手で建設・開催されたテーマパーク「ディズマランド」に対するバンクシーのコメントです。もちろんテーマパーク名は知らない人はいないであろう夢の国ディズニーランドのパロディ作品で、コンセプトは「世界で一番憂鬱になれるテーマパーク」でした。

※This is media「ディズマランドとは?バンクシーが作った『悪夢のテーマパーク』を徹底解説 https://media.thisisgallery.com/20216852

これ、結構な人が勘違いしてるのですが、バンクシー自身は特別ディズニーに対し負の感情を抱いているわけではないということがコメントから読み取れます。(バンクシーほどのアーティストになれば、ディズニーが過去、戦争のプロパガンダアニメーションを制作していたことなども、いちいち目くじら立てて騒ぎ立てることでもないのかもしれませんね。)

単純に彼は言っている通り「アートを作るということは自らをエンターテイメント産業の一部に入れるということ」を少し左よりに実行しただけということでしょう。
ここにも私のブログで中心となっている「笑い(エンターテイメント)」の要素がキーになっていますね。

ただ読者を惑わすようで恐縮ですが、バンクシーは一方で以下のような作品も制作しています。

※The Art of  is Banksyより転載 https://theartofbanksy.jp

 

…いや、バンクシーさん、ぜったいディズニー(てかアメリカ)嫌いですよね?

ただ、これはベトナム戦争でアメリカの空爆から逃げる子供達の写真から抜き出されたもので、アメリカ型資本主義、グローバル企業による児童労働や搾取、戦争に対するバンクシーの皮肉や反対メッセージとして作られたものであり、このように作品によってはバンクシーは明確な意図とメッセージをもって創作しているものも少なくありません。
この作品が2005年で、先ほどのディズマランドが2015年ですから、この10年の間にバンクシー自身でも何か心境の変化があったのかもしれません。

そしてもう1つ、私が数多あるバンクシーの言葉の中で最も印象に残っている言葉をご紹介します。

[政治]
・世界をよりよい場所にしたいと望んでいる人間ほど危険なものはない。(バンクシー)

…いかがでしょう。
栄枯盛衰のすべてを凝縮したような文章ですよね。
たった1行の文ですが、現代に生きるすべての人々の胸をえぐるような、非常に印象的なメッセージです。

このバンクシーの言葉については、皆さんの想像に任せたく、あえてこのブログで詳しいところまでは解説しないようにしますが、仮にこの言葉が真だとしたら、この世界はいま人の拠り所のない非常に刹那的な状況に陥りつつあるのかもしれませんね。

政治や資本主義、戦争などの様々な思惑や事情が入り組み複雑化する現代社会に対し、「少し左より」の視点から綿密に考え抜かれた即興アートエンターテイメントを展開するバンクシー、あらためて21世紀を代表するアーティストの1人だと感じました。

P.S
ちなみにバンクシーについて更に知見を深めたい方は以下の2冊がおすすめです。
読みやすく個々の有名な作品の背景にも踏み込まれているので、バンクシー初級者から上級者まで深く楽しめると思います。

バンクシー アート・テロリスト (光文社新書)


バンクシー 壊れかけた世界に愛を

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