今週のPickUp!展覧会(会期:7月中頃まで)

東京都

○翻訳できない わたしの言葉 @東京都現代美術館  会期:7/7(日)まで

<概要>
・世界には様々な言語があり、一つの言語の中にも、方言や世代・経験による語彙・文法の違いなど、無数の豊かなバリエーションがあります。話す相手や場に応じて、仲間同士や家族だけで通じる言葉を使ったり、他言語を使ったりと、複数の言葉を使い分ける人もいるでしょう。言葉にしなくても伝わる思いもあります。それらはすべて、個人の中にこれまで蓄積されてきた経験の総体から生まれる「わたしの言葉」です。

 他言語を学ぶことでその言語を生み出した人々の文化や歴史に触れるように、誰かのことを知ることは、その人の「わたしの言葉」を、別の言葉に置き換えることなくそのまま受けとろうとすることから始まるのではないでしょうか。

 この展覧会では、ユニ・ホン・シャープ、マユンキキ、南雲麻衣、新井英夫、金仁淑の5人のアーティストの作品を紹介します。彼らの作品は、みんなが同じ言語を話しているようにみえる社会に、異なる言語があることや、同じ言語の中にある違いに、解像度をあげ目を凝らそうとするものです。

 第一言語ではない言葉の発音がうまくできない様子を表現した作品や、最初に習得した言語の他に本来なら得られたかもしれない言語がある状況について語る作品、言葉が通じない相手の目をじっと見つめる作品、そして小さい声を聞き逃さないように耳を澄ませる体験などを通して、この展覧会では、鑑賞者一人ひとりが自分とは異なる誰かの「わたしの言葉」、そして自分自身の「わたしの言葉」を大切に思う機会を提示したいと思います。

○ホー・ツーニェン エージェントのA @東京都現代美術館  会期:7/7(日)まで

<概要>
・シンガポールを拠点に活動するアーティスト、ホー・ツーニェンの個展。
 ホー・ツーニェンは、東南アジアの歴史的な出来事、思想、個人または集団的な主体性や文化的アイデンティティに独自の視点から切り込む映像やヴィデオ・インスタレーション、パフォーマンスを制作してきました。既存の映像、映画、アーカイブ資料などから引用した素材を再編したイメージとスクリプトは、東南アジアの地政学を織りなす力学や歴史的言説の複層性を抽象的かつ想起的に描き出します。そのようなホーの作品は、これまでに世界各地の文化組織、ビエンナーレなどで展示され、演劇祭や映画祭でも取り上げられてきました。国内でも、当館で開催した「他人の時間」展(2015年)を含めた多くの展覧会に参加し、近年は国際舞台芸術ミーティング in 横浜(2018年、2020年)、あいちトリエンナーレ2019(2019年)、山口情報芸術センター[YCAM](2021年)、豊田市美術館(2021年)で新たな作品を発表し話題を呼びました。

 本展では、ホーのこれまでの歴史的探求の軌跡を辿るべく、最初期の作品含む6点の映像インスタレーション作品を展示するとともに、国内初公開となる最新作を紹介します。ホーが監督と脚本を務めたデビュー作《ウタマ—歴史に現れたる名はすべて我なり》(2003年)は、シンガポールという国名の由来「シンガプーラ(サンスクリット語でライオンのいる町)」とその地を命名したとされるサン・ニラ・ウタマに関する諸説を巡りながら、イギリス人植民地行政官スタンフォード・ラッフルズを建国者とする近代の建国物語を解体します。3Dアニメーションを用いた《一頭あるいは数頭のトラ》(2017年)では、トラを人間の祖先とする信仰や人虎にまつわる神話をはじめ、19世紀にイギリス政府からの委任で入植していた測量士ジョージ・D・コールマンとトラとの遭遇や、第二次世界大戦中、イギリス軍を降伏させ「マレーのトラ」と呼ばれた軍人山下奉文など、シンガポールの歴史における支配と被支配の関係が、姿を変え続けるトラと人間を介して語られます。

 ホーは他にも、既存の映像を転用し、マレー半島の近現代史とその編纂に影響を与えた人物に焦点を当てた作品を制作しています。第二次世界大戦中、マラヤ共産党総書記を務めながら、イギリス、日本、フランスの三重スパイとして暗躍したライ・テクを取りあげた《名のない人》(2015年)、マラヤ共産党とマラヤ危機について、党の機密情報に基づいた文献を残した、ゴーストライターとも言われているジーン・Z・ハンラハンを描いた《名前》(2015年)は、いくつもの映画の断片をつなげ、複数のイデオロギーに介在した謎多き人物に、同一性をもたせることなく、その内側に迫ります。

 これらの作品を生み出す基盤となっているのは、2012年に始まったプロジェクト「東南アジアの批評辞典」です。「いかなる言語、宗教、政治体制によっても統一されることのなかった東南アジアの総体性をもたせるのは何か?」という問いを起点にしたこのプロジェクトのオンラインプラットフォームが、本展でも展示する《CDOSEA(東南アジアの批評辞典)》(2017-)です。幅広いソースから抽出された東南アジアに関連するAからZのキーワードとイメージが、アルゴリズムによって都度組み合わされ、東南アジアというその呼び名が想起させる総体に抗う多層性、複数性を描き出します。

ホーの最新作で新たな展開ともいえる《時間(タイム)のT》(2023年)では、ホーが引用しアニメーション化した映像の断片が、アルゴリズムによって、時間の様々な側面とスケール—素粒子の時間から生命の寿命、宇宙における時間まで—を描き出すシークエンスに編成されます。それらが喚起する意味や感覚は、時間とは何か、そして私たちの時間の経験や想像に介在するものは何かを問いかけます。

○ホー・ツーニェン Ho Tzu Nyen
・1976年シンガポール生まれ、同地在住。ホー・ツーニェンの映像、映像インスタレーション、パフォーマンスは、幅広い資料や言説を参照し、再編成することで、複雑に絡み合う歴史や権力、あるいは個の複雑な主体性を描き出す。ホーの作品は世界各地で取り上げられており、2011年には第54回ヴェネチア・ビエンナーレのシンガポール館の代表を務めた。近年、ハマー美術館(ロサンゼルス、2022年)、豊田市美術館(2021年)、クロウ・アジア美術館(米テキサス州ダラス、2021年)、山口情報芸術センター[YCAM](山口市、2021年)、ハンブルク美術館(ハンブルク、2018年)、明当代美術館(上海、2018年)などで個展を開催しており、タイランド・ビエンナーレ(チェンライ、2023年)、あいちトリエンナーレ2019(名古屋市等、2019年)、第12回光州ビエンナーレ(光州、2018年)等の国際展にも数多く参加している。また、世界演劇祭(ドイツ各地、2010年、2023年)、オランダ芸術祭(アムステルダム、2018年、2020年)、ベルリン国際映画祭(ベルリン、2015年)、サンダンス映画祭(米ユタ州パークシティ、2012年)、カンヌ映画祭第41回監督週間(カンヌ、2009年)など、各地の演劇祭や映画祭でも取り上げられている。2019年にはアーティストの許家維(シュウ・ジャウェイ)と共に、国立台湾美術館で開催された第7回アジア・アート・ビエンナーレのキュレーションを担当した。

○TOPコレクション 時間旅 千二百箇月の過去とかんずる方角から @東京都写真美術館
 会期:7/7(日)まで

<概要>
・本展覧会は「時間旅行」をテーマとする東京都写真美術館のコレクション展です。人が様々な時代を自由に旅する「時間旅行」という発想は昔からよく知られたSF的なファンタジーですが、想像の世界や芸術の領域では、人は誰でも時間と空間の常識を飛び越えることが可能なのではないでしょうか。

 詩人で童話作家の宮沢賢治が1924(大正13)年に刊行した『心象スケッチ 春と修羅』では、宇宙的なスケールの時間感覚の中で「わたくし」の心象、言葉で記録された風景、そして森羅万象とがひとつに重なりあったような「第四次延長」という世界が描かれます。その世界観は当時の最先端の科学や思想から影響を受けた宮沢賢治の想像力が生み出したものです。しかし百年前の詩人の言葉とそれを生み出した想像力には、現代という分断の時代を生きる私たちの心にも響く何かがきっとあるはずです。

 本展は百年前である1924年を出発点として、「1924年–大正13年」「昭和モダン街」「かつて、ここで」「20世紀の旅」「時空の旅」の5つのセクションに分け、37,000点*を超える当館収蔵の写真・映像作品、資料を中心にご紹介します。「時間旅行」をテーマとする本展で鑑賞者は、それぞれの時代、それぞれの場所で紡ぎ出される物語と出会うことができるでしょう。また、本展は宮沢賢治による『春と修羅』序文の言葉をひとつの手掛かりとして、戦前、戦後そして現代を想像力によってつなぐ旅でもあります。写真と映像による時空を超えた旅を、どうぞお楽しみください。

○企画展 古美術かぞえうた-名前に数字がある作品- @根津美術館  会期:7/15(月・祝)まで

<概要>
・ものの数量や分量、あるいは順序や回数をあらわす数字は、わたしたちの身のまわりにあふれています。古美術作品の名前にも数字をともなうものが少なからずあります。それらの数字には意味があって、その作品の特徴が端的に示されています。けれども数字が意味する内容は一様ではありません。形そのものや形式、技法や組合せ、さらには風俗や思想にかかわるものまでさまざまです。そのため、作品名の数字に注目することがその作品の理解を深めることにつながるのです。かぞえうたのように数字をたどりながら、気軽に楽しく鑑賞していただきたいと思います。

○ポップ・アップ・アート コレクションとパフォーマンスを楽しむ @金沢21世紀美術館 会期:7/15(月・祝)まで

※画像はLazy氏ブログ記事(https://ameblo.jp/lazy-l/entry-12853324754.html)から転載

<概要>
・金沢21世紀美術館は2004年10月に開館し、今年で20周年を迎えます。
 記念の年の最初の展覧会は、春から夏に向けて、美術館のコレクションを様々な場所でご覧いただくPop-up Artを開催します。

 金沢21世紀美術館はSANAA 妹島和世+西沢立衛がデザインを手がけ、円形で、外壁が全てガラスという特徴的な建物です。今回は、ちょうどドーナツの輪の部分に当たる交流ゾーンに沿って周回する間に、まるでパソコンの画面の最前面に「ポップアップ」するように、次々と作品が目の前に現れるように作品を配置しています。さらに期間中、この交流ゾーンを会場にピアノや琵琶のコンサート、ダンスなど様々なパフォーマンスも繰り広げられます。また、同じ敷地の中にある「プロジェクト工房」では、テクノロジー、環境、人間性の探究といったテーマに取り組むヤノベケンジの作品群を、一堂にまとめて紹介します。

 空間の特徴に合わせて展開する12組の作家によるコレクション作品と数々のパフォーマンスを、自然光が溢れ、水平に伸びやかに広がる明るく開放的な空間でお楽しみください。

◆ 出品作家(姓の五十音順)
ペーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス、ライアン・ガンダー、シルパ・グプタ、小金沢健人、さわひらき、島袋道浩、ローリー・シモンズ、須田悦弘、サラ・ジー、トーチカ、パトリック・トゥットフオコ、ヤノベケンジ

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