創業150年に迫る全国紙の創業者が収集、市中の山居をめざして 大阪:中之島香雪美術館

大阪府

こんにちは。今日から大阪府です。
これまですっ飛ばしてきた都府県(東京、静岡、長野、そして今後京都、香川あたり)は最後にゆっくりとご紹介します。
では大阪府…日本で東京に次ぐ一大都市ですが、ここでご紹介するということは…そうです、美術館の数が人口にしては少ないのです。これは良くも悪くも大阪のカラーを示している結果と言えそうですが、そんな中でもキラリと光る美術館は存在します。(もしかすると大阪の最後に、そのような政策的な背景を記載して終わるかもしれませんが)

それでは1館目、こちらは中之島のビジネス街に2018年にオープンしたまだ出来たての美術館です。

このブログで紹介する美術館

中之島香雪美術館

・開館:2018年
・美術館内外観(以下画像は美術館HP、府・市観光協会より転載)
 
・場所
中之島香雪美術館 – Google マップ

創業150年に迫る全国紙の創業者が収集

・朝日新聞社の創業者である村山龍平氏(1850~1933年)が収集した日本と東アジアの古い時代の美術品を所蔵している美術館。刀剣・武具、仏教美術、書跡、近世絵画、茶道具など、多岐にわたる収集品を紹介し、日本の文化財を守ろうとした氏の想いを伝えています。
(参考)中之島香雪美術館紹介パンフレット

コンセプトー市中の山居

・「新たな市中の山居の創造」というのが中之島香雪美術館のコンセプトだそうです。これは超高層ビルという現代のビジネス街において、静謐で格調ある空間の中、日本美術を堪能していただきたいというもので、茶の湯の世界観、「街の中にいながら草案を営み、山中のような静寂な境地を味わう」ことをテーマにされているようです。

めざす姿

喧噪を忘れ静かに美術品と向き合える美術館

・日本の文化・芸術を守り後世に伝える。

幅広い世代の人々が集う都市型美術館

・ミュージアムショップの設置、展示テーマに即した講演やセミナーの開催。

伝統と革新が融合した新たな展示スペースの創設

・現代建築と伝統美が融合した空間に最新鋭の空調や展示ケース、LED照明を設置。

魅力ある企画展や多彩な展示に対応する空間

・様々な企画展に対応する可動展示壁など多彩な機能をもたせる。

国指定重要文化財である「玄庵」を再現した茶室

・旧村山家住宅に現存する茶室を伝統建築技法で再現。

村山龍平について

・香雪美術館の「香雪」とは、村山龍平の号です。嘉永3年(1850年)、三重県で生まれた龍平は、28歳で朝日新聞を創刊。日本を代表する新聞に育てながらも、美術にも深い関心を寄せ、岡倉天心らの主宰する美術雑誌「國華」の経営も引き受けます。開国後、多くの価値ある美術品が海外へと流出し始めると、それを食い止めたいという思いから美術品の収集に力を注ぎました。
(→これ先日ご紹介した天一美術館と同じコンセプトですね)

没後、学術的・美術的に価値ある収集品に対し美術館設立の声が高まり、昭和47年(1972年)に財団法人香雪美術館を設立。翌1948年(1973年)、神戸・御影に香雪美術館が開館。美術品はもとより、国の重要文化財に指定された旧村山家住宅の保存・調査を進めながら、茶会など文化的体験の機会を提供する公益活動に取り組んできました。その後、2018年に新たに「中之島香雪美術館」がこれに加わることになりました。

所蔵品について

・所蔵品は、重要文化財19点、重要美術品33点。仏教美術、書跡、近世絵画から茶道具、武具まで、幅広いジャンルにわたります。神戸・御影の香雪美術館(現在休館中)同様に、テーマを決めて館蔵美術品を展示する「コレクション展」と、日本美術の様々な作家に焦点を当てた「企画展」を開催。展示に関係するテーマの講演会と茶会をあわせた「梅園会」を年に数回開催し、美術品に対する理解を深める機会を設けているそうです。

※重要美術品 長谷川等伯筆 柳橋水車図屏風 (桃山~江戸時代、16~17世紀)
※野々村仁清作 色絵忍草文茶碗(江戸時代、17世紀)
※重要文化財 梁楷筆 布袋図(南宋時代、13世紀)
※重要文化財 稚児大師像(鎌倉時代、13世紀)

茶室「中之島玄庵」

・国指定重要文化財「旧村山家住宅」に建つ茶室「玄庵」を原寸大で再現。「茶室」のみならず「露地」空間全体を再現して常設展示するという手法は、今回の「中之島香雪美術館」が初めてとの事。設計・監修は京都伝統建築技術協会の中村昌生氏が担当、施工は元禄元年(1688)創業の安井杢工務店が実施。露地は中根庭園研究所が監修。露地については、藪内流の「露地」の特徴である腰掛待合、猿戸から内露地の段差のついた珍しい戸摺石や飛石を配置。延段や手水鉢、灯籠などを造形、下草や苔なども忠実に再現展示。演出照明を駆使した光による明暗や、プロジェクターで最新デジタルCG映像を投影するなど、テクノロジーを駆使して四季折々に変化する茶室の空間の演出。ビジネス街という一見対極にあるような茶の湯の世界観が再現されています。
 

(付録)茶室玄庵について

・村山龍平は、明治44年(1911年)より藪内節庵の指導を受けました。村山邸の和館の奥に建てられた「玄庵」は、藪内流家元の茶室である重要文化財「燕庵」の写しで、これを写して建てることは相伝を得た人だけが許されたものであったそうです。
※玄庵(村山邸のもの)

村山龍平記念室

・朝日新聞社の歴史や、中之島における社屋の変遷について、年表やパネル、映像で紹介。朝日新聞創刊号のパネルなどの資料も展示。村山龍平氏が移り住んだ神戸·御影が関西財界人の住まう屈指の高級住宅地として発展してきた歴史や、現存する国指定重要文化財「旧村山家住宅」を、パネルや全景ジオラマ模型、映像で紹介。

また、岡倉天心たちが主宰した美術雑誌『國華』の経営を引き継ぐエピソードを、書簡や『國華』の関連資料とともに紹介もしています。多くの美術品の海外流出を食い止め、自ら美術品の収集に力を注いだ物語や、日本の美術への想いを感じ取ることができます。
  

いかがだったでしょうか。意外と朝日新聞の創設者について考える機会などない人が多いのではないかと思います。美術館を開設するほどの著名な美術コレクターだったのですね。ちなみに「朝日新聞」の「朝日」は、初代編集主幹だった津田貞氏の提案「毎朝、早く配達され、何よりも早く人が手にするもの」から名付けられたそうです。

そんな誰よりもアンテナを高く張り、誰よりも情報に敏感だった朝日新聞創設者のコレクション、一度どんなものなのか皆さんも足を運んでみて下さい。きっと当時の想いを感じ取ることができるのではないかと思います。

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