今日から三重県です。県庁所在地は…津市ですね、皆さん行ったことがありますか?
実は私は先日の富山に続いて、この津、旧知の知り合いがいた時期がありまして、何度か足を運んだことがあります。私の記憶が正しければ、この津市…県内では四日市市、鈴鹿市、松坂市に次いで4番目の人口です。そんな津市がなぜ県庁所在地になったのでしょうか…これは1871年(明治4年)の廃藩置県の際、四日市は県庁舎としていた旧陣屋が狭小で官員の住居に不足していたこと、一方で津は旧城下町で県庁に適した建物や官員の住居があったことなどが挙げられるそうです。
そんな三重県津市にある公立美術館、結構玄人好みのなかなか良い美術館です。では早速。
このブログで紹介する美術館
三重県立美術館
・開館:1982年
・美術館外観(以下画像は美術館HP、県観光協会、及び情報サイトArtSpace HPより転載)
・場所
三重県立美術館 – Google マップ
作品を守り伝えることの重要性、「自己」を形成するためのコミュニケーション・プラットフォームを目指して
・美術館の役割として、「それが単なる象牙の塔に留まらず、常に社会に積極的に働きかけようとすること」と美術館HPでは述べられています。この想いを念頭に、企画展開催に際しての広報活動、美術講演会、トークや美術セミナー、遠隔地の人々を対象にした移動美術館、美術館ニュース『HILL WIND』の発行などを行っています。また、常設展示は年間4期に分けて、日本近代絵画を中心に、現代に至る美術の流れを系統的に捉えることを目指されているそうです。企画展示室では独自のテーマによる自主企画展も催されています。
そして本館においてもっとも特徴的なのは、日本の公立美術館には数少ない保存・修復を専門とする職員を配置、作品を守りながら伝えることに努めている点です。(作品を良好な状態に保ち、次世代へ伝えていくため、随時展示替えを行いながら公開しているそうです)
作品を守り伝えるため
・三重県立美術館はその所蔵する作品(一部寄託作品を含みます)、及びご所蔵者の許可のもと当館において調査を行った作品の高精細画像とX線(レントゲン)撮影した画像とを比較表示しています。X線画像には、別の絵やひび、傷、絵の具の厚さなど絵画に潜むいろいろな姿が見て取れますので、ご興味の方は以下の公式サイトからご覧ください。(派手な企画展はうたなくても、こういうた美術館の根本的な部分に愚直に取り組まれている姿勢は頭が下がりますね)
〇三重県立美術館 X線連動比較画像:
https://www.bunka.pref.mie.lg.jp/art-museum/71628039582.htm
三重県立美術館の調査・研究
・三重県立美術館は、そのあらゆる活動の出発点は美術に関する広くまた深い研究と考え、展覧会の企画のための準備に際してはもとより、平時より、収蔵品及び三重県ゆかりの美術家や美術資料を中心に、特定のテーマを設けて調査研究活動に重点を置かれています。館としての研究とともに、学芸員は各自の専門領域で研究テーマがあり、それが研究機関として、さらには社会と密接な交渉を持つ教育機関としての美術館運営の基礎となっているそう。これらの調査・研究の成果は、展覧会、作品図録、研究論集などを通じて発表されています。
コレクションについて
・特に近代洋画については、旧制中学の教員として三重県に赴任していた藤島武二など三重にゆかりのある作家に加え、明治期の洋画界を牽引した黒田清輝、岡田三郎助、大正期の美術史を彩る村山槐多、関根正二、またパリに学んだ佐伯祐三などのすぐれた作品を所蔵し、明治から昭和にいたる流れをほぼ概観できる内容となっているそうです。また、近代日本画では松阪出身で主に京都で活動した宇田荻邨や、伊勢出身の伊藤小坡の作品を収蔵していることが特徴です。江戸時代の美術では、近年高く評価されている曾我蕭白の作品をまとめて所蔵、国の重要文化財に指定されている旧永島家襖絵などが含まれます。
収蔵方針
(1)江戸時代以降の作品で三重県出身ないし三重にゆかりの深い作家の作品
(2)明治時代以降の近代洋画の流れをたどることのできる作品、また日本の近代美術に深い影響を与えた外国の作品
(3)作家の創作活動の背景を知ることのできる素描、下絵、水彩画等
(4)スペイン美術 ※三重県とスペイン・バレンシア州との友好提携による
主なコレクション
<藤島武二>
<宇田荻邨>
※本画像は情報サイト「アートアジェンダ」から転載
<伊藤小坡>
※すいません、あまり画像が出ておらず…京都画壇ではかの有名な上村松園と並びたてられることもある作家さんです。三重県内には伊藤小坡美術館もあり、もしかしたら沖縄まで行った後、全国美術館紹介二巡目(⁈)で書かせてもらうかもしれません。
(参考)https://www.sarutahikojinja.or.jp/shoha/
<曾我蕭白>
※重要文化財です
→なんかあらためてこう見ると、曾我蕭白って昔の人ですけど、現代にも通じるくらいcool(かっこいい)画風ですね。以下で説明する三重県立美術館のめざす「自己」を強く持った画人だと言えるかもしれませんね。
三重県立美術館のめざすこと
・なお、美術館のホームページには「三重県立美術館のめざすこと」と題し、主に5つの活動方針とそれに込めた想いが記載されています。それをご紹介するとともに、まずは前文が設けられていますので、それをご覧ください。
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・近年、情報化社会は人々の生活をますます便利にする一方で、効率化や即効性ばかりが求められ、じっくりと本物に向き合い沈思する機会が尊ばれなくなるとともに、美術館の基本的な活動内容や存在意義そのものが問われる機会が多くなってきました。このような時代に、人々が真に幸福で豊かな生活を送るためには、美術館には何ができるでしょうか。私たちは、今後の美術館のあり方をあらためて考え直す必要性を感じ、これからの活動の指針として、新たに「三重県立美術館のめざすこと」を策定しました。
今回の策定にあたっては、美術館で働く職員をはじめ、ボランティアや関係組織の構成員、専門委員や協議会委員の皆様から広く意見をうかがい、館内で討議を重ね、文化交流ゾーンに位置する今後の三重県立美術館のあるべき姿を模索しました。当館が人々の感性を育み自己を形づくるためのかけがえのない場として機能すること、他の組織や個人と協働しながら美術館の可能性を広げることを重視した内容となっています。
美術館事業の最終的な目的は、現在および未来の人々が豊かな生活や文化を育むことにあります。美術館の事業は何よりも利用者を念頭においたこの目的のために行われなければなりません。三重県立美術館では、この目的を達成するために、利用者が自己の視点を相対化し、自己の世界を広げられる環境を整えることが重要であると考えます。そのため、美術品の収集・保存・公開といった基本的な機能を果たしながら、さまざまな時代・地域の芸術や既存の価値観にとらわれない表現を紹介すること、そして、利用者が、他者とのコミュニケーションを通じて互いの価値観を認め合い、自己を形づくるための機会を提供することを、事業の柱として活動していきます。
三重県立美術館は、そうした事業を通じて、モノとモノ、モノとヒト、ヒトとヒトをつなぐコミュニケーション・プラットフォームとしての役割を果たし、地域の文化を継承、発展させ、新しい文化・新しい価値が創造される豊かな土壌を育んでいきます。
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誰もが利用しやすい環境を整える
・美術館は、年齢や立場、障がいの有無に関わらず、誰もが訪れやすく利用しやすい公益性を持った施設であるべきです。そのため、これまで以上に多くの利用者が美術の楽しみを享受できるよう、設備各所のバリアフリー化や展示環境の改善などを計画的に行い、安全で快適な施設の維持管理に取り組んでいきます。また、県内唯一の公立美術館として、あらゆる利用者に充実した美術館体験を提供することをめざし、異なる立場や年齢にあわせた教育プログラムを実施し、美術への多様な関わり方を紹介していきます。加えて、当館に訪れる機会のもてない利用者にも配慮して、館外における美術館資源の活用を多方面から模索するとともに、発信力を強化し、さまざまなメディアを通して事業の内容や成果を積極的に情報提供していきます。
コレクションの充実、保護ならびにその研究の深化に努め、来たる世代にその意義を伝える
・博物館法にも定められているように、美術資料の収集・保管・調査研究・展示は、美術館活動の根幹となる事業です。なかでも、コレクションの充実と保護は、地域の歴史や人々が生きた記憶を形ある資料を通して次世代へと伝えていく重要な役割を果たし、その不備は、現在のみならず未来の人々にとっての大きな損害となり得ます。近年、経済状況の悪化などによって、美術品の収集活動がとりわけ困難を極めています。三重県立美術館では、その重要性をあらためて認識し、コレクションの充実に向け、あらゆる方策を試み、関係各所に働きかけていきます。また、すでにあるコレクションや地域に伝わる文化資源については、これまでの蓄積をふまえながら、個々の作品の調査研究を進め、既成の概念にとらわれない再評価、再検証を行っていきます。そして、その成果を発信していくことで、作品の価値を未来へと引き継いでいきます。
優れた美術やさまざまな表現を通して、利用者が、多様な価値観や文化に触れ、自己の世界を広げられるような機会を提供する
・美術は、人類の豊かな創造性や多様な価値観に触れ、未知の世界に出会うことを可能にします。人々は、そうした経験を通して、他者への共感と理解をうながす感性や想像力を育むことができます。美術館は、美術がもたらすこうした経験を充実したものとするために、一定の高度な水準や独創性、多様性などを持った内容や伝達方法を提供していく必要があります。三重県立美術館では、これまで、美術をさまざまな観点から紹介する文化的に意義のある展覧会やその他事業を開催し、館の特徴として評価を得てきました。当館は、この特性を継続、発展させながら、これからも、新しい内容や新しい観点を提示し、利用者がその視野を広げられるような事業を実施していきます。
独創的な芸術活動を支援し、三重から新たな文化を発信する
・人々が、幸福で豊かな生活を送るためには、そのアイデンティティの拠りどころとなる地域の文化に対して、誇りと尊敬を抱くことが大切です。これまでに培われた文化を保存・継承するだけでなく、その豊かな土壌を耕し、独創的な文化や新しい価値を創造して、広く発信していかなくてはなりません。そのため、利用者が創作や鑑賞の楽しみを享受し、精神と創造性を養えるような環境を整えることで、次世代の表現者が育ちゆく土壌を育んでいきます。そして、地域に根付いた伝統的な文化や、独自の美術表現を追求した作家や活動の調査研究を実施することで、三重県独自の文化や美術の潮流を浮き彫りにするとともに、若いアーティストたちの制作や活動の支援、紹介に取り組み、新しい文化や芸術の発信に努めます。
さまざまな組織・個人と協働し、美術館の可能性を広げる
・上記に掲げた指針を十分に達成し、新しい文化や価値を生み出していくためには、美術館の専門性を追求するだけでなく、さまざまな個人や組織と協働することによって、従来の機能や、その可能性を押し広げていく必要があります。三重県立美術館は、これまでにも、作品の相互貸与や巡回展の開催などで国内外の美術館と協力し合い、また、ボランティア欅の会、友の会、協力会といった支援団体と連携することで、多彩な実現してきました。今後は、そうした連携協力関係を維持、強化するとともに、学校や大学など他の教育機関と密に連絡し、美術と接する機会を多くの青少年に届けるよう努めます。そして、文化交流ゾーンにともに位置する県立図書館、三重県総合博物館をはじめとした、異なる専門性を持った組織・個人との本質的かつ恒常的な連携、協力を行い、美術館の専門性に新たな光をあて、潜在的な可能性を掘り起こします。(以上、2018年3月31日 三重県立美術館 館長:速水 豊)
…いかがだったでしょうか。
なんかあらためて三重県立美術館の良さが見えてきたのではないかと思います。確かに派手な企画展やイベントは行われていないかもしれませんが、美術館の本務である「保存・修復、研究」に力点を置いた良い美術館と言えると思います。昨今、人口減少などで予算も限られている中、美術館の役割とは何か、それをしっかりと見つめてそれを愚直なまでに遂行されている姿は素晴らしいですね。
例えは悪いかもしれませんが、絵画でいうと石膏デッサン、スポーツでいうと走り込みなど、基礎練習を怠らないでそれを熟練の域まで高めようとしている職人魂を本美術館からは感じました。私はサッカーが好きなので、日本代表の遠藤航選手のようないぶし銀の感じでしょうか。(分からない人、すいません!)
そんなこんなで三重県立美術館、皆さんもそんな思いでご覧いただくとまた違った見え方がするかもしれませんよ。
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