さて今回の展覧会、「九州洋画Ⅱ:大地の力 Black Spirytus」の大きなテーマの一つと言えるのが、“想いの伝承” です。
黒田清輝や久米桂一郎、百武兼行、岡田三郎助、藤島武二など、明治洋画の開拓者に九州出身者が多かったことは有名ですよね。時代の変化の波に乗って大志を抱いた彼らは、若くしてヨーロッパで洋画を修め、帰国後も画家として、そして教育者として、後進たちを育てつつ近代的な美術制度の確立に貢献したと評価されています。彼らの次の世代の画家たちはパイオニアの師から薫陶を受け、ある者は美術界の最前線で新しい表現を切り拓き、そしてある者は郷里で美術の先生となるなどして、制作を続ける傍ら後進たちを育てました。こうして、中央と地方の両方で美術の裾野が広がり、ここから日本近代美術の枝葉が豊かに広がっていったというわけです。そのような意味で、九州の画家たちは、まさに日本の近代美術界に種を蒔く役割を果たしたといえます。
最初に海外で洋画を学んだ一人である百武兼行の作品は、堅実な描写にドラマティックな陰影表現が際立つ力作。明治の日本人たちを驚かせたであろう、精妙な洋画の技術が冴えています(実は本業は絵画でなく、外交官だったというのも驚きです)。有名な青木繁の作品も、日本神話をテーマにしたロマンティックな画面にナショナリズムと土着性とが不思議なバランスで綯い交ぜになっているように思えます。さらに若い世代である古賀春江や坂本善三などの画家は、美術学校で学んだアカデミックな技術を起点としながらも、抽象画など同時代の新しい表現に刺激を受け、前の世代とは全く異なる作風を花開かせます。師の表現にとどまらず、時代の潮目で独自の表現を切り拓いていくということ。同時に技術を受け継ぎ、表現への欲求を燃やし続けていくこと。そんな力強いエネルギーを持った美術作品を、久留米市美術館学芸員の佐々木奈美子氏は、「想いを受け継ぎ、人を立ち上がらせるような絵画」と素敵な言葉で形容しています(『九州洋画Ⅱ:大地の力 Black Spirytus』展覧会図録 P.14より)。展覧会を観ていると、まさにそれを繰り返しながら日本の美術が豊かになっていったことが分かりますし、他ならぬそれこそが表現の本質だと思い知らされます。
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