世界中の人々の記憶を心臓音にのせて恒久的に保存アーカイブ 香川:心臓音のアーカイブ

アートな場所

こんにちは。全国の美術館紹介、いよいよ東京を除くと残り2県になりました。美術館が多いところを残していましたが、今日からは香川県です。そう、ベネッセアートサイトの拠点が多くある場所です。ベネッセ自体は岡山の企業なのですが、直島や豊島を含め、主要な拠点は海を挟んだ反対側、この香川県に存在します。※犬島(精錬所美術館家プロジェクト)は岡山県でしたね。

そんなこんなで香川県、これから見ていきますが、たぶん現代アート主体のご紹介になりそうです。そんな最初のアートスポットはその名も「心臓音のアーカイブ」。いきなり突拍子もない名前ですが、こちら惜しまれながらも2021年7月に逝去された世界的な現代アーティスト:クリスチャン・ボルタンスキーの代表作です(私もこの場所で心臓音を録音しました)。それでは早速ご紹介しましょう。

このブログで紹介するアート施設

心臓音のアーカイブ

・開館:2010年
・美術館外観(以下画像は施設HP、県・観光協会HPより転載)

・場所
心臓音のアーカイブ – Google マップ

世界中の人々の記憶を心臓音にのせて恒久的に保存アーカイブ

・クリスチャン・ボルタンスキーが人々が生きた証として、心臓音を収集するプロジェクト、アーカイブ作品を展示。これまでボルタンスキーが集めた世界中の人々の心臓音を恒久的に保存し、それらの心臓音を聴くことができる小さな美術館であり、自分の心臓音をここで採録することも可能です。

クリスチャン・ボルタンスキーとは

・現代アーティスト。1944年、亡命ロシア人系のユダヤ人医師を父とし、フランスのブルジョア出身の作家を母としてパリに生まれる。
学校教育をほとんど受けず、独学で絵画を始める。最初は画家を志すが、20歳頃から実物大の人形を作ったり、実験映画に熱中。1968年最初の個展を開催、以来世界各国で作品を発表。古い写真や古着、ろうそくの光など、多彩な素材と方法により、“生と死”の問題をなげかける。’80年代後半から、ホロコーストの持つ“人間否定”の概念を扱った作品も発表。代表作に「D家のアルバム」(’71年)、「保存―死者の湖」(’90年)、「シャス高校」など。’90年日本で初の個展開催、越後妻有アートトリエンナーレに連続出展。2006年より世界中の人々の心臓音を集め始め、2010年に瀬戸内海の豊島に美術館“心臓音のアーカイブ”を開館。共著に「クリスチャン・ボルタンスキーの可能な人生」がある。2006年、世界文化賞(彫刻部門,第18回)を受章。

→本も書かれているのですね。


クリスチャン・ボルタンスキーの可能な人生

→ファンの方でしょうか、Amazonの書評がすごく分かりやすかったので載せておきます。更に読み進めたい方は手に取ってみてください。
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(クリスチャン・ボルタンスキーの可能な人生を読んで~書評)
・みずからを「ホロコーストの落とし子」として自覚するボルタンスキーは、おそらく死/死別という暴力を、生々しく身近に感知しながら、子供時代を生きていた。人は、成長とともに、私と家族、私と世界が無媒介な世界を出発し、意味に媒介されて価値に動機づけられて生きる世界を旅していくようになる。ほとんど学校に通うことなく、ずっと家族といっしょにいるという、かなり特殊な子供時代を送ったボルタンスキーは、死/死別という暴力の感知もあって、家族と過ごした子供時代の無媒介な世界とそこでの毎日の生活が、かけがえのないものと思われたようだ。だからボルタンスキーにとって、大人になるということは、耐えがたく、受け入れがたいことだった。それでも或る日、悟らされた。子供時代が終わってしまったことを、である。それをボルタンスキーは「内なる子供の死」と言う。彼によれば、誰もが内なる子供の死という喪失体験をもっているのだ。

 ボルタンスキーにとって、死/死別という暴力との戦いと、内なる子供の死と回復は、切り離しがたく結ばれている。そしておそらくそれは、無媒介に生きられた世界と人びとのかけがえなさ、愛おしさにも由来するのだろう。意識を分化させてゆき、意味に媒介され、価値に動機づけられる世界をより豊かに生きていこうとすることは、人間の自然本性にかなった善いことである。だから人間は損得勘定なしに、ものごとの本質を理解したいとか、真実を知りたいとか、ほんとうに価値のあることをしたいと希求する。しかし、無媒介性もただ失われるのではない。それは、審美的・芸術的・宗教的(神秘的)体験において新たに生きられ、意味に媒介され価値に動機づけられた世界と、審美的・芸術的・神秘的世界は、溶け合うことなく統合されて、相互に豊かにしあう。

 だからボルタンスキーは芸術と宗教を選んだ。かけがえのない無媒介的な世界と人びとを死/死別の暴力から守り抜くこと、死と命との闘いで命の側につくことを決断した。その決断は愛なのだが、その愛と祈願を作品を通じてエモーションにのせて伝えるというミッションを、ボルタンスキーは最後まで生きた、そのことが伝わってくる良書であった。(Amazonからカスタマーレビューから抜粋)
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→ええっと、下のマーカーの部分は少しわかりづらいかもしれませんが、要は「意味に媒介されて価値に動機づけられて生きる世界=窮屈な大人の世界」をより豊かに生きていくには、審美(美しいものをそのまま美しいと感じとる力)、芸術(アート)、神秘(宗教)が、各々、(単に混じるのではなく)お互いに有機的に結びついていくことが大切だと述べているのだと思われます。

…うーん、何となくわかりますでしょうか。日本人は宗教性は弱めですが、このあたり宗教を自然(崇拝)に置き換えると何となくわかりそうですね。

主な展示作品

・はい、ここまでボルタンスキーの思想の概略を予習したところで、以下本施設の展示作品をご覧ください。
<クリスチャン・ボルタンスキー 心臓音のアーカイブ>

…いかがでしょうか。心臓音…人によってとらえ方はそれぞれだと思いますが、私なんかは赤ちゃんがまだお母さんのお腹の中にいるときに聴診器などで心臓音がかすかに聞こえてくるのを不思議な感覚で聴いた記憶がよみがえりました。(…中にはドクドクっと緊張したり動悸したときの怖い思い出、嫌な記憶が呼び起こされる人もいるかもしれませんね)

ボルタンスキーは恐らく、この空間で審美、芸術、神秘の世界を見る人に試したかったのではないかとマウス的には考えています。何が美しいか、何がアートなのか、そして自分たちはどこから来てどこへ向かうのか…そんなことを問うているようなアート施設です。
皆さんも香川県、現代アートの一大エリアに行かれた際は、ぜひこの心臓音のアーカイブを聴いてみてください!

(マウス)

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