日本文化の情報発信拠点をめざして 静岡:MOA美術館

静岡県

こんにちは。静岡県の美術館紹介、まだまだいきます。今日ご紹介する美術館の創設者は、前半生を実業家として、後半生を宗教家として生きた方です。しかも、自身も日本画家を志して岡倉天心が創設した東京美術学校(東京芸術大学美術学部の前身)に入学します。茨城県天心記念五浦美術館でもご紹介しましたが、こんなところにも岡倉イズムが開花しているのですね。あらためてその影響力の大きさに驚きます…と、同時に宗教家が建てた美術館といえば、滋賀県のMIHO MUSEUMもありましたね。実はMIHO MUSEUMは今日ご紹介する創設者のお弟子さんだったなのです。(なので同じ宗派)まだお読みいただいていない方が是非一緒にご覧いただけると幸いです。それでは早速。

このブログで紹介する美術館

MOA美術館

・開館:1982年
・美術館外観(以下画像は美術館HP、県・市観光協会HPより転載)

・場所
MOA美術館 – Google マップ
→静岡県熱海市です。温泉で有名ですね。

日本文化の情報発信拠点をめざして

・昭和57(1982)年に開館、ロビーエリア、展示スペースの設計は、現代美術作家 杉本博司氏が建築家 榊田倫之氏と共に主宰する「新素材研究所」が手掛けました。コレクションは、創立者・岡田茂吉氏(1882 ~ 1955)が蒐集した日本・中国をはじめとする東洋美術を中心に構成。内容は、絵画、書跡、彫刻、工芸等、多岐にわたります。なかでも国宝「紅白梅図屏風」は、江戸中期の絵師・尾形光琳の最高傑作と高く評され、二曲一双の金地を背景に白梅と紅梅を対峙させ、図案化した梅花や水流を配し装飾的な画面をつくりあげました。

国宝「紅白梅図屏風」尾形光琳

→色んな美術館ご紹介してきましたが…これ、ここにあるのですね。各種資料や教科書等で目にした方も多いと思います。

美術館の基本コンセプト

①日本文化の情報発信をする。
②観光事業と美術・工芸の発展を推進する。
③行政とのパートナーシップによる「新しい公共性」をもった美術館をめざす。
④熱海市をはじめ近隣の各市町と共に、健康で豊かな心を育む「国際観光文化都市」に向かって、地域交流型の人々に愛される美術館をめざす。
⑤学校と連携して、美による情操教育を積極的に推進する。
⑥観覧者に幸福感を感じていただける顧客満足度の高い美術館をめざす。
⑦多くの皆様に支援していただけるよう、友の会の普及と寄付金制度を確立する。

→ここまで明確に「観光」や「行政との協働」、「顧客満足度(⁈)」とか謳っている美術館って結構珍しいと思います。

創立者:岡田茂吉について

・箱根美術館の創立者で、後のMOA美術館の基礎を築いた岡田茂吉。前半生を実業家として、そして後半生は宗教家として、明治・大正・昭和期を生きました。幼年期から骨董・絵画に深い関心を寄せていた岡田氏は、日本画家を志して岡倉天心が創設した東京美術学校(東京芸術大学美術学部の前身)に入学、しかし病により絵画修業を断念します。

健康を快復してからは、蒔絵制作に打ちこむなど工芸技法の習得に努め、簪・笄など婦人装身具の意匠考案と販売事業で成功、各種博覧会でも高い評価を得て、青年実業家としての地位を確保します。しかし、身辺の不幸に重ねて関東大震災、世界恐慌などにより事楽も傾き、苦悩の日々を経験。そのような生活から脱するために哲学・思想・宗教の研究に没頭した岡田氏は、優れた美術品は人間の本質に強く働きかけ、広く社会人心を陶冶し、健全な社会を形成するという芸術的境地に到達。

病貧争の克服と理想世界の実現を目指し、芸術の体験によって人の情操が高まる美のひな型を建設し、その中心に日本文化を世界に発信する美術館を創設することが、岡田氏の終生の願いとなりました。

→うーん、我々の時代も9・11や3・11、コロナ禍など色んなことが起きていますが、それを芸術で昇華するという手法なのですね。MIHO MUSEUMの創設者:小山氏と師弟関係(岡田氏が師)ですから、ぜひコンセプトからしてもワンセットで訪れたい場所ですね。どうでもいいですが、こちらの美術館名称は「Mokichi Okada Association」の頭文字を取ったものですが、MIHO MUSEUMはそのまま創設者の名前MIHOを使ったのは面白いところだなあと個人的に感じました。

岡田茂吉氏 年表

・1882(明治15年) 東京都台東区橋場に生まれる。生家は江戸時代より代々続く富裕な質屋「武蔵屋」(12月23日)
・1897(明治30年) 15歳 東京美術学校(現東京藝術大学)入学。後に眼疾のために中途退学
・1905(明治38年) 23歳 東京都中央区八重洲に小間物小売商「光琳堂」開業
・1907(明治40年) 25歳 東京都中央区京橋に装身具卸商「岡田商店」を開業
この頃、東京美術学校在学時の校長であった岡倉天心を訪問し、下村観山、木村武山らと日本美術の将来や琳派について歓談
・1914(大正3年) 32歳 東京大正博覧会に自らデザインした簪を出展、銅賞受賞
・1915(大正4年) 33歳 装身具「旭ダイアモンド」の特許を取得、当時の流行となる。この他世界九か国の特許を取得。他に、11件の実用新案を取得。岡田商店の隆盛期を迎える
・1919(大正8年) 37歳 取引銀行が倒産、事業に大打撃を受ける
・1920(大正9年) 38歳 岡田商店再建のために出資者を募って株式会社とするも、世界的な「戦後恐慌」に苦しむ
・1923(大正12年) 41歳 関東大震災のため事業に打撃
・1935(昭和10年) 53歳 大日本観音会発会(1月1日)、東京都世田谷区上野毛「玉川郷」(後の宝山荘)に移転(10月1日)
・1936(昭和11年) 54歳 病なき世界を目指して大日本健康協会創立(5月15日)
・1937(昭和12年) 55歳 自然農法の研究を開始
・1944(昭和19年) 62歳 箱根強羅へ移転。自然美と人工美の調和した芸術世界のひな型「神仙郷」の建築に着手(5月5日)、熱海市春日町「東山荘」に移転(10月5日)。以後、夏は箱根、秋から春を熱海で過ごす
・1945(昭和20年) 63歳 熱海市伊豆山大久保の土地を購入。以降、芸術世界のひな型瑞雲郷の造営を開始。「色絵桃花文皿 鍋島」(重文)を購入し、本格的な美術品の収集を始める
・1946(昭和21年) 64歳 「神仙郷」内に「観山亭」を建築(8月15日)
・1948(昭和23年) 66歳 秋には熱海の「東山荘」から、同じく熱海「碧雲荘」に移転
・1950(昭和25年) 68歳 世界救世教発会(2月4日)、「神仙郷」内に「山月庵」を建築、「樹下美人図」(重文)を購入し、海外流出を防ぐ
・1951(昭和26年) 69歳 東京日比谷公会堂において「真文明の想像」を題して講演(5月22日)
・1952(昭和27年) 70歳 箱根美術館開館(6月15日)、財団法人東明美術保存会設立(昭和57年にMOA美術・文化財団と名称変更(9月15日)、京都嵯峨野に平安郷の用地を入手。以降、造営に着手(10月18日)、世界ユネスコ本部に外務省情報文化局を通じて「湯女図」複製を寄贈(12月18日)
・1953(昭和28年) 71歳 箱根美術館別館建設(5月25日)、自然農法普及会発足(12月1日)、「手鑑 翰墨城」(国宝)を収集
・1954(昭和29年) 72歳 尾形光琳筆「紅白梅図屏風」(国宝)を収集(2月4日)、日本橋三越本店にて「肉筆浮世絵名作展」を開催(4月9日)、熱海「瑞雲郷」に水晶殿完成(12月11日)
・1955(昭和30年) 73歳 野々村仁清作「色絵藤花文茶壺」(国宝)を収集(2月8日)、熱海「碧雲荘」にて午後3時33分逝去(2月10日)
・1957(昭和32年) 熱海美術館開館(1月1日)
・1982(昭和57年) MOA美術館開館
・2002(平成15年) 『岡田茂吉全集』全三六巻(1992~2002)
・2015(平成27年) 岡田茂吉記念館開館(京都 平安郷)(4月)

主なコレクション

・以下の7つを中心にコレクションをされているようです。詳細は以下URLご参照ください。
〇MOA美術館 コレクション:https://www.moaart.or.jp/collections/

<日本の絵画>※写真は一例

<中国の絵画>※写真は一例

<仏教絵画・彫刻>※写真は一例

<書跡>※写真は一例

<日本の陶磁器>※写真は一例

<中国の陶磁器>※写真は一例

<染織・漆工・金工・木工>※写真は一例

Kōgei Dining

・本美術館、他にも人間国宝を中心とする工芸作家の作品をミュージアムショップ、オンラインショップで販売し、工芸品を実際に使って食を楽しむ「Kōgei Dining」を行い、美を日常に取り入れる楽しさを提供しているそうです→https://www.moaart.or.jp/concept/culture/traditional-crafts-2/

熱海座

・美術館内の能楽堂を拠点に伝統芸能やクラシック、ジャズなどの洋の東西を問わず上質な舞台芸術、音楽を熱海市民に楽しんでいただく場として創設。

→他にも、私設美術館でありながら、小学校、中学校、高等学校の生徒及び先生方を対象とし、当館の美術品を用いた学習指導要領に基づく各種スクールプログラムを実施したり、映像アーカイブや各種著名人を呼んでの美の対談、児童作品展、いけばな教室などを実施されているそうです。こういった公的側面を有しているのは私設美術館にしてはなかなか珍しいと思います。
〇MOA美術館 活動紹介:https://www.moaart.or.jp/concept/activity/

私設美術館でありながら、熱海市一円の、また東海エリアにおいて幅広い文化・芸術を展開されているMOA美術館、行けば1日楽しめるのではないでしょうか。皆さんもぜひご来館ください!

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