敗戦を教訓に、文化の国を目指し美術品を金沢の人たちへ開放した1人の酒造家 石川:金沢市立中村記念美術館

アートな場所

こんにちは。石川県、前回まで2館ほどユニークなアート施設をご紹介しておきました。
今回からは美術品を収集しているいわゆる美術館のご紹介です。金沢…名所多いですよね、北陸の一大観光地です。兼六園や近江町市場、茶屋街で飲んだお酒…あれ美味しかったな(現在マウスの脳内、金沢の良かった思い出吟味中)…そんな金沢、その美味しいお酒つくりに励まれている地元の酒造会社で元代表(そして金沢市議会議員、金沢商工会議所会頭等まで歴任された)方が収集、創立した美術館です。では早速。

このブログで紹介する美術館

金沢市立中村記念美術館

・開館:1966年
・美術館外観(以下画像は美術館HP、県・市観光協会HPより転載)

・場所
金沢市立中村記念美術館 – Google マップ
→兼六園や石川県立美術館の隣…場所めっちゃいいですよね。これらワンセットで観覧できますね。

敗戦を教訓に、文化の国を目指し美術品を金沢の人たちへ開放した1人の酒造家

・金沢で酒造業を営む実業家で茶人の中村栄俊氏(1908年~1978年)が創立した財団法人中村記念館に始まり。中村氏は1943年(昭和18年)、表千家流の茶道に入門。1945年(昭和20年)の敗戦に痛手を受けた中村氏は、「戦後の日本は文化国家として繁栄していかなければならない、そのために金沢に美術館を作ろう」と志を立て、それから精力的な収集を開始。1965年(昭和40年)、「美術品は一個人のものではなく国民の宝である」という信念のもと、収集した美術品を寄贈して財団を設立、中村家住宅を展示棟として現在地に移築・改装。1966年(昭和41年)、中村記念館を開館。その後、1975年(昭和50年)、所蔵品が金沢市に寄贈、金沢市立中村記念美術館として再発足。1989年(平成元年)、市制百周年を記念して新館が開館。

主なコレクション

・所蔵品は、茶道具、近世絵画、古九谷、加賀蒔絵など、中村氏収集の名品を核に、個人からの寄贈や市費による購入が加わり、現在、重要文化財5点、県指定文化財1点、市指定文化財8点をはじめ約千点。これを年4~6回の企画展で公開するほか、茶会など多彩な行事を開催しているそうです。特に以下の古書、書跡に重要文化財が多く貴重なコレクションになっているようです。
<夢窓疎石(1275~1351)>

※本画像は文化遺産オンライン(https://bunka.nii.ac.jp/db/heritages/detail/133724)より転載
<藤原定家(1162~1241)>

<平家重(生没年不詳)>

<藤原重輔(生没年不詳)>

・他に、絵画、陶芸、漆芸、金工、木工などに県・市の重要文化財や重要美術品指定のものがあります。
<伝:李安忠(生没年不詳)>

<伝:卒翁(生没年不詳)>

<小堀遠州(1579~1647)>

<陶芸品、漆芸品>


→なんか、こういう古い貴重な工芸品というのは東京国立博物館などに収蔵されているイメージ…一地方の市町、しかも元は個人コレクションというのに驚かされます。

(付録)中村酒造株式会社とは

・美術館とセットで二度おいしいコレクター所縁の会社のご紹介。中村栄俊氏が代表を務めた中村酒造…どんな会社だったのでしょう。今でも以下の4つにこだわり、日本酒つくりをされているそうです。

中村酒造の日本酒つくりのこだわり①

1.飲み飽きしない最高のお酒
  →米の旨みと上品な香りを楽しみつつ、キレがあり飲み飽きしない酒質を目指す。
 2.食中酒として合わせられる最高のお酒
  →上品な旨みと香りが食事を邪魔しない。また適度な酸度でキレが続く。
 3.「中村屋」は純米酒ブランド
  →地元産酒造米のみを使用。また契約栽培酒造米も順次増やしてゆく。
 4.金沢酵母にこだわった酒造り
  →金沢国税局で開発された14号酵母を基本に醸造、上品な味わいに仕上げる。

…地元産にこだわった食事のお供としてキレ味を大事にされているのですね。

中村酒造の日本酒つくりのこだわり②

・以下は中村酒造のHP、現当主の方のコメントです。
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日本酒市場が長きに亘り低迷していました。その背景は、日本が昭和30~40年代に戦後の食料難の時代から脱却し、原料米がある程度十分に入手できるようになり、高度経済成長期を迎え消費も旺盛になり、日本酒はかつてないその好況を背景にあたかも工業製品の様に増産を繰り返しました。その結果として日本酒の本来持っている「日本人の主食である米の恵みに感謝し、地域の文化としての酒造りを通した食文化を守り育てる」という重要な価値観より、大量生産、大量販売による生産効率やコストを優先にする酒造りが主流になってしまいました。それは取りも直さず、日本酒の魅力を自らが否定し、消費者からも敬遠される原因を助長したと思える状況が存在したのではないかと考えます。しかしながら、昨今の潮流は「食」と「文化」の両面から日本酒を見つめなおす動きが発生してきています。

弊社はこのような流れを踏まえ、今一度、会社として「地酒」にこだわり、「地酒」という新しい概念を弊社から創り、発信してゆくことが日本酒の再生を促すために必要と考えています。弊社の考える「地酒」の定義は「地域で育まれた原料(米)をその地域の技と気候風土で醸すこと」です。酒造りは本来、農業発展型の1.5次産業であり、地域の資源を磨き、魅力付けて、発信することがその使命と弊社は考え酒造りを行っています。(中村酒造現当主:中村太郎)
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→なんか最近思うんですけど、アートや美術館のご紹介もさながら、この最後のビジネス哲学もなかなか価値が高いなと…現当主も先々代の中村栄俊氏に負けず劣らず素晴らしい経営哲学をお持ちのようですね…何となく、普段はお酒が飲めない私が、金沢で飲んだ日本酒がなんであんなに美味しかったのか解ったような気がします。

そんなこんなで石川県、まだまだ続きます。引き続き、本ブログ「絵本と、アートと。」をよろしくお願いします。

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