こんにちは。岐阜県の最後は中部地方エリアを代表する公立館です。こちらも先日の金沢21世紀美術館同様、館長さんが有名人、ユニークな方です(この方、岐阜市ご出身だったのですね)。2015年に館長に就任されて以来、その良い色が美術館の活動にも出ているような気がします。早速ご紹介しましょう。
このブログで紹介する美術館
岐阜県美術館
・開館:1982年
・美術館外観(以下画像は美術館HP、県観光協会HPより転載)
・場所
岐阜県美術館 – Google マップ
美とふれあい美と会話し美を楽しむ
・学芸スタッフが中心となって展覧会をつくり「美とふれあう」場を創造、教育普及スタッフが中心となって「美と会話」する場を創り出し、新たにアートコミュニケーションチームを置いて「美を楽しむ」時間、空間を来館者とともに育んでいくことを目標とされています。
また、後述しますが、アートの魅力をより多くの人に体感してもらおうと始めた「ナンヤローネ」の活動、これをさらに進化させていきたいと考えられていて、館内には美術館の情報を全て集約し美術館での過ごし方を提案するコンセルジュ機能をもつ「ナンヤローネステーション」を設置。コミュニケーションルームにはアートコミュニケーターたちの拠点をおき、美の楽しみかたを生み出す場として機能させています。
館長の日比野克彦さんは、「美術館は作品を鑑賞するだけでなく、地域性や館のオリジナリティを発信し、人々の交流を通して、ものを生み出していく場でもあります。2016(平成28)年から人とアートをつなぐキーワード「ナンヤローネ」を軸にさまざまなプロジェクトを展開していますが、「ナンヤローネワークショップ」に「ナンヤローネアートツアー」、「アーティスト・イン・ミュージアム」や「アートまるケット」など、人とアート、地域とアート、人と人、人と地域をつなぐ活動をめざしている。」と述べられ、岐阜県美術館がより多彩なかたちでアートを体験できる場となるよう工夫を進められています。
※館長:日比野克彦さん
「ナンヤローネプロジェクト」とは
・「これってなんやろーね?」美術館にきて、作品を観て、ふと浮かぶ言葉。これは岐阜でよく耳にする言いかただそうです。大人になると知らず知らずのうちに身についてしまう恥じらいや見栄が邪魔をして、知っていて当たり前とか、知らないのは気まずいとか、そんな思いが邪魔をして、なかなか口に出せない言葉です。
しかし、岐阜県美術館は「ナンヤローネ」を大切な言葉として扱い取組みを展開されているそう。
それは美術作品の理解も、まずは素直に疑問を持つことから始まるためで、「これってなんやろーね?」と楽に口に出し、コミュニケーションが始まったり、それぞれが美術を楽しんだりする出発点となるような、そんな美術の楽しさを体感してもらえるような空間つくりや美術館の活動を「ナンヤローネ プロジェクト」と題して実施されています。
※ナンヤローネプロジェクトのロゴ
館長:日比野克彦さんの言葉
・そんな岐阜県美術館、有名館長の日比野克彦さんの故郷:岐阜県美術館に込める想いについて載せておきます。
わからないけど、のぞきこんでみる
・「ナンヤローネ」っていうのは、自分はまだ知らない、自分のものになっていない、ちょっと遠いところにある、けど、取りに行く、見つけたいっていう気持ちや態度のこと。知らないから分からない、経験したことがなくて、怖いから行かない、じゃなくって、自分以外のところ(場所や物事、人々など)がもっている常識に対して、まずは見に行ってみるっていう、そんな気持ちが「ナンヤローネ」。ちょっと行って見る、ちょっと行動を起こす、知らないこと、分からないことに対してちょっと覗きこんでみるっていう、そんな(主体的で肯定的な)人間の気持ちや心構えが「ナンヤローネ」。
見えないところをイメージする
・自分の常識だけに留まらず、他の常識や他者の認識を見に行く。自分とは異なるものを積極的に見に行くっていうのは、多様性(を受容する態度)とか、いろんな人がいるのだなっていう意識をつくり、もつうえで、とても大事なこと。海の中って見えないから、知らないところ行ったことのないところに、ちょっと探りを入れるみたいなね。「ナンヤローネ」は見えない海の中へ糸を垂らす行為に似ているかな。
人間って、見えないところが見えている。自分の世界のほうは見えている。自分の世界は、自分にとって安心感・安定感がある。だから、(それで満足するのではなく)見えていない海の中に糸を垂らすことで、新たな自分を見つけようとする。見えてないところを見ながら、垂らしている糸の先を自分のなかで「こうなっているんじゃないかな」「ああなっているんじゃないかな」ってイメージする。自分でイメージすることで、知らない人や物たちが、新しい自分に気付かせてくれる、そんなことがあるかもしれない。
←館長:日比野さんのプロジェクトイメージ
美術館で感じたことを、日常にもちかえる
・でも、そこに行くには、ちょっと非日常的な、「舟」っていうものに乗って行かなくちゃいけない。舟に乗ると、「自分ってなんなのだろう」「自分はどこから来たのかな」って思いを巡らすこともあるだろう。言葉以前の動物的な感覚みたいなものに自分の中で気づいたり、自分の中で無くなったものがまた価値を得るような思いに至ったりするかもしれない。舟に乗って糸を垂らす人に、そんな状況が生まれ「ナンヤローネ」っていう世界が広がっていく。
だからこの舟に乗るっていうのは、美術館に行くってことかもしれないし、身の回りのものに対してちょっと見方を変えるときに、自分でこしらえた態度かもしれない。そのようなことを来館者・鑑賞者に感じてもらいたい。美術館のいろんな作品を見ながら感じたことを自分のこととして自分の日常に持ち帰って、自分でもまた日常の中に舟をつくって、身の回りには知らないことがたくさんあるけど、そういうものに糸を垂らしながら、新しい自分を見つけていってほしいな。(日比野克彦 2019年4月、岐阜県美術館にて)
→なるほど…著名な方っていうのは難しいことは平たんな言葉で表現するのがうまいんだなと日比野さんのコメントを見ているといつもそう思わされます。そういえばこの考え方、前にご紹介したアーティストとしての木梨憲武さんと考えが似ていたりします。(気になる方は本ブログ「笑いと色彩をつなぐ自由の劔ー面白くなければアートじゃない!」をご覧ください)
〇なお、ナンヤローネプロジェクトを含む岐阜県美術館の各種イベントについては、以下のURLからご覧いただけます。
・https://kenbi.pref.gifu.lg.jp/program-event/eventlist/
主なコレクション
・そんな岐阜県美術館、日比野さんが館長になって以降様々な活動を展開されていますが、元々良質なコレクションをお持ちです。本ブログでもご紹介しておきます。
<山本芳翠>
※2014年、重要文化財に指定
<川合玉堂>
<オディロン・ルドン>
→なんかルドンの絵画って一度見ると脳裏から離れない存在感…。
…いかがだったでしょうか。館長の日比野克彦さん、実はこの方私の記憶が正しければサッカーもお好きで、それこそサッカーとアートをコラボレーションしたような様々な取り組みも実施されています。
<有料記事ですが…毎日新聞に掲載された記事があります>
・毎日新聞掲載:「アートとサッカー近い関係」日比野克彦さん、古里・岐阜へ思いも
https://mainichi.jp/articles/20220531/k00/00m/040/068000c
本ブログはだいたい書きためていて、投稿の1ヶ月前ほどに初稿を書くことが多いですが、恐らくこれが投稿される時期はサッカーカタールW杯の真っただ中でしょう。日比野さんもアートはそっちのけで…いや、アートと絡めてなお一層にサッカーの応援熱も力を入れられていると思います。
そんな良い意味で常識外れの岐阜県とその美術館、アート施設の数々いかがだったでしょうか。皆さんも中部エリアに行かれた際は、名古屋止まりではなく、岐阜にも足を伸ばしてぜひ美術の面白さを体感してみて下さい!(もちろん名古屋も満喫した上でね)
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