今週のPickUp!展覧会 2025年1月②

東京都

○現在地のまなざし 日本の新進作家 vol.21  @東京都写真美術館 会期:1/19(日)まで

<概要>
・「日本の新進作家」展は、写真・映像の可能性に挑戦する創造的精神を支援し、将来性のある作家を発掘するために、新しい創造活動の展開の場として2002年より継続して開催しています。21回目となる本展では、社会、環境、人と人との関係性を自身の立ち位置から問い直し、写真を通して世界の断片を提示する5 名の作家たちの試みを紹介します。

 私たちは、これまで当たり前と感じていた価値観が揺らぐような数々の出来事に直面し、変化のある時代に生きています。写真表現も、技術の進歩と普及、表現手法の多様化にともない、その環境は激変しています。本展の出品作家たちは自身の感性にしたがって世界と向き合い、独自の視点で思考を深めて作品として提示します。

 生物や日用品など身のまわりにあるささやかな存在に目を向けて、時間を留める手法として写真を扱う大田黒衣美、

 自身が暮らす土地の仮設的とも言える変化を止めない風景を、淡々と観察し、記録し続けるかんのさゆり、

 ドキュメンタリーの視点と虚実を混ぜたイメージで現実をあぶりだす千賀健史、

 一般的な概念にとらわれず個と個の距離と関係性を切り取る金川晋吾、

 かつて誰かが見た光景を通じて、見るものが持つ記憶を喚起させる原田裕規。

 表現する手法として写真を選びとり、しなやかなまなざしで現実をとらえる作家たちの作品は、現在を生きる私たちにいつもとはすこし異なる角度から世界を見る視点を与えてくれます。5 名の作家たちの多様な試みを通して、今日の、そしてこれからのまなざしの可能性を改めて見つめる契機となることでしょう。

出品作家
大田黒衣美|Otaguro Emi
かんのさゆり|Kanno Sayuri
千賀健史|Chiga Kenji
金川晋吾|Kanagawa Shingo
原田裕規|Harada Yuki

○ルイーズ・ブルジョワ展 地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ  @森美術館
 会期:1/19(日)まで

<概要>
・ルイーズ・ブルジョワ(1911年パリ生まれ、2010年ニューヨークにて没)は、20世紀を代表する最も重要なアーティストの一人です。70年にわたるキャリアの中で、インスタレーション、彫刻、ドローイング、絵画など、さまざまなメディアを用いながら、男性と女性、受動と能動、具象と抽象、意識と無意識といった二項対立に潜む緊張関係を探求しました。そして、対極にあるこれらの概念を比類なき造形力によって作品の中に共存させてきました。

 ブルジョワの芸術は、主に自身が幼少期に経験した、複雑で、ときにトラウマ的な出来事をインスピレーションの源としています。彼女は記憶や感情を呼び起こすことで普遍的なモチーフへと昇華させ、希望と恐怖、不安と安らぎ、罪悪感と償い、緊張と解放といった相反する感情や心理状態を表現しました。また、セクシュアリティやジェンダー、身体をモチーフにしたパフォーマンスや彫刻は、フェミニズムの文脈でも高く評価されてきました。

 さまざまなアーティストに多大な影響を与えているブルジョワの芸術は、現在も世界の主要美術館で展示され続けています。日本では27年ぶり、また国内最大規模の個展となる本展では、100点を超える作品群を、3章構成で紹介し、その活動の全貌に迫ります。

本展の副題「地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ」はハンカチに刺繍で言葉を綴った晩年の作品からの引用です。この言葉は、ブルジョワの感情のゆらぎや両義性を暗示しつつ、ブラックユーモアのセンスをも感じさせます。自らを逆境を生き抜いた「サバイバー」だと考えていたルイーズ・ブルジョワ。生きることへの強い意志を表現するその作品群は、戦争や自然災害、病気など、人類が直面する、ときに「地獄」のような苦しみを克服するヒントを与えてくれることでしょう。

○山形の美術 山形美術館60年のあゆみとコレクション  @山形美術館 会期:1/26(日)まで

<概要>
・山形美術館は、まだ地方に美術館が少なかった1964年にオープンし、2024年8月20日に開館60周年を迎えました。当館ではこれまで、企画展や3つの県展、館利用団体展などさまざまな分野の展覧会を開催し、市民が美術に親しむ場や、創作活動にはげむ人々が作品を発表する機会の提供を図ることで、本県の芸術文化振興に寄与してきました。また日本および東洋美術、フランス近代美術の優品をはじめ、本県にゆかりの深い作家らの作品を収集し、現在では2,100点を超えるコレクションを収蔵しています。

 本展では60年の節目を記念し、開館から現在に至るまで収蔵された絵画、彫刻、工芸などの多彩な作品とともに、山形美術館のあゆみを概観します。また、60周年記念事業として市民から募集した「山形美術館との思い出」もあわせて紹介します。過去の軌跡を振り返りながら、山形美術館のこれからの活動や、「山形の美術」について展望する一つの機会とします。

○儒教のかたち こころの鑑 日本美術に見る儒教  @サントリー美術館 会期:1/26(日)まで

<概要>
・儒教は、紀元前6世紀の中国で孔子(前552/551~前479)が唱えた教説と、その後継者たちの解釈を指す思想です。孔子が唱えた思想とは、五常(仁・義・礼・智・信)による道徳観を修得・実践して聖人に近づくことが目標であり、徳をもって世を治める人間像を理想としています。このような思想は、仏教よりも早く4世紀には日本へ伝来したといわれ、古代の宮廷で、為政者のあるべき姿を学ぶための学問として享受されました。

 中世になると、宋から新たに朱子学(南宋の朱熹が確立させた新しい儒教思想)が日本へ伝わり、禅僧たちがそれを熱心に学んだことから、儒教は禅宗寺院でも重要視されました。そして近世以降、文治政治を旨とする江戸幕府は、儒教を積極的に奨励し、その拠点として湯島聖堂を整備します。江戸時代を通じ日本各地で、身分を問わず武家から民衆、子どもに至るまで、その教育に儒教が採用され、広く浸透していったのです。

 例えば、理想の君主像を表し為政者の空間を飾った、大画面の「帝鑑図」や「二十四孝図」が制作された一方で、庶民が手にした浮世絵や身の回りの工芸品の文様にも同じ思想が息づいています。それらの作品には、当時の人々が求めた心の理想、すなわち鑑(かがみ)となる思想が示されており、現代の私たちにとっても新鮮な気づきをもたらしてくれます。本展が、『論語』にある「温故知新」(ふるきをたづねて新しきを知る)のように、日本美術の名品に宿る豊かなメッセージに思いを馳せる機会となれば幸いです。

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