オノマトペと抽象画のユーモラスな組み合わせ「もこ もこもこ」

絵本

今日ご紹介するのは「もこ もこもこ」(谷川俊太郎作、元永定正絵、1977年、文研出版)です。こちらも押しも押されぬロングセラー絵本なので、ご存知の方も多いのではと思います。
この本の魅力は、なんといってもシンプルなオノマトペと、インパクトと愛嬌のある絵の絶妙な組み合わせ。文の方は詩人である谷川俊太郎さんが、そして絵は、前衛画家としても活躍した元永定正さんが手がけています。
土の中から「もこ」と顔を出した、植物のような動物のような不思議な存在。ぐんぐん大きくなって、隣に生えた「にょき」を「ぱく」と食べてしまいます。すると…?テンポよく直感的に理解できるストーリー、見開きページいっぱいに広がるユーモラスな画面に、何度も何度もページを繰りたくなってしまいます。

この「もこ もこもこ」の不思議な挿絵を描いた方が、戦後の日本美術を代表する有名な前衛画家だったと知ったのは、大学で美術を学び始めてからでした。
元永定正さん(1922-2011) は、第二次世界大戦後の1950年代から抽象画家として活動し、阪神エリアで花開いた前衛画家のグループ「具体美術協会」のメンバーとしても知られます(今でも神戸市内などで、元永さんのパブリックアートを見ることができます)。初期には絵具をカンヴァス上に勢いよく流すスタイルで知られましたが、アクリル絵具やエアブラシ(絵具を霧状に噴霧する画材)で、ユニークで有機的な形を描いて独自の画風を確立させました。活動も絵画や絵本のみならず、版画やオブジェ、デザインと多岐にわたっています。
本作「もこ もこもこ」もエアブラシを使って描かれていますね。現在のデジタルグラフィックスを連想させるようなシンプルな構図と色の平面的な画面ですが、手描き感のある線が絶妙な温かみを感じさせていい味を出しています。色彩のグラデーションも美しいですよね。私は特に、「にょき」を食べた「もこ」の「もぐもぐ」させている口元の描写が好きです。
元永さんのインタビューを読むと、本作が出版された当時は周囲からの抗議や無理解の声も多かったのだそう。今でこそ驚くようなエピソードですが、実際の元永さんの作品は、絵画でも絵本でもそれ以外でも、子どものような遊び心に溢れています。そしてそれこそが、子どもたちに愛されてやまない絵本の魅力につながっているのかな、と思います。

作者の谷川俊太郎さんが、本作を朗読している動画がありました(すごい貴重…)。個人的には、自分自身が子供に読んであげている時と抑揚のつけ方が全く違ったのが興味深かったです。本作制作当時のことも回想しています。二人の出会いがアメリカというのが興味深いですね。当時のアメリカは(今もですが)世界のアートやカルチャーの中心地でした。

 

元永さんの絵本には、他にも「もけらもけら」などオノマトペと組み合わせたユニークな絵本が多いです。ぜひ手にとってみてくださいね。






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