親と子のかけがえのないひととき「おかあさんのおっぱい」

絵本

3歳半になる我が子は、実は最近まで大変なおっぱい愛好家でした。
生後半年にして哺乳瓶ストライキを起こし、ミルクの混合を泣く泣くストップ(そのせいで体重の増えが悪く、健診では何度も要健康観察と言われました)。昼はもちろん、夜中に授乳をねだられて何度も起こされる日々です。保育園に行き出してからも、朝と夕方、そして寝る前は必ずおっぱいをせがまれていました。
そんな子どもとのコミュニケーションに役に立った絵本が「おかあさんのおっぱい 」(ホ・ウンミ文、ユン・ミスク絵、おおたけきよみ訳、光村教育図書、2008年)です。

著者と絵のお二人は韓国の方です。中でも絵を手がけたユン・ミスクさんは、2004年に韓国人として初めて、絵本作家の登竜門とも言える国際的な絵本原画コンクール、ボローニャ国際児童図書展(ボローニャ国際絵本原画展)でラガッツィ賞を受賞した実力者です。韓国の伝統的な水墨画を思わせる肥瘦豊かな線や柔らかな色彩とともに、大胆な構図とコラージュの手法を織り交ぜた現代的なセンスが光る画家です。

カラフルな見開きページごとにさまざまな動物の親子が登場し、子どもがお母さんのおっぱいを飲む様子が描かれます。牛や豚などの身近な動物から、カンガルーやイルカなどのおっぱい事情は、大人でも「へぇ〜」と思えること間違いなし。授乳の情景を通して、子どもと一緒に動物の生態を自然に学ぶことができるのもいいところです。特に、カモノハシやハリモグラのおっぱい事情は私も初めて知って、とても驚きました。生き物の世界って、本当に奥深いですね。
挿絵も素敵ですが、文章も短くシンプルなので、幼児期から5歳ころまで、飽きず読むことができると思います。子どももこの絵本が大のお気に入りで、「ぶたさんのおっぱいはお母さん(私)よりたくさんあるねぇ」とか「きりんさんの赤ちゃんは立ったままおっぱいを飲むんだね!」などと読みながら沢山話してくれます。
巷にはびこり、新米母親を苦しめるいわゆる母乳神話は私は全く信用していません(色々な事情で授乳が不可能な方も多いですし、自分自身もそれで大いに苦しんだので)。それでも、授乳という行為自体は、単に栄養をあげるというだけではない、幼児期限定のかけがえのないコミュニケーションのひとときであるような気がします。もちろんそれは、哺乳瓶でミルクをあげる時間も変わりません。ミルクの場合は、お母さんだけでなく、お父さんや他の家族も担当できるところがいいですよね。我が子も、赤ちゃんの時期はもちろん、特に保育園に通い出して環境の変化でストレスが大きかったであろう頃は、事あるごとに乳首を口に含むだけで自然と安心するようでした。我が子にとって、授乳は精神安定剤くらいの大きな意味があった気がします。だからこそ、最近まで卒業できなかったのですが…。
夜中に何度も起きたりと、肉体的にも精神的にも大変な授乳の時間。しかし、今回のような絵本をヒントにしながら、少しでも親子で安らげる、情緒豊かな授乳タイムを育むことができれば、と思います。

他におっぱいを題材にした絵本には、わかやまけんさんの「おっぱい おっぱい 」(童心社、1983年)や、柳生弦一郎さんの「おっぱいのひみつ」(福音館書店、1991年)などがあります。「おっぱい おっぱい」は、ストーリーの基本構造は「おかあさんのおっぱい 」と似ていますが、文章も絵もよりシンプルで、新生児期からの読み聞かせに最適です。「こぐまちゃんシリーズ」とは少しテイストが違う、わかやまさんの温かみあふれる絵も魅力のひとつです。「おっぱいのひみつ」は、柳生さん流のユーモラスな挿画と手書きの文字で、子どもたちも興味津々なおっぱいの仕組みを、科学的に解説している絵本です。
また、「おかあさんのおっぱい」の画家、ユン・ミスクさんによる既刊には、韓国の昔話に取材した「ふしぎなしろねずみ」(チャン・チョルムン作、かみやにじ訳、岩波書店、2009年)や「あずきがゆばあさんとトラ」(チョ・ホサン作、おおたけきよみ訳、アートン、2004年)があります。どちらも韓国のかつての民衆の世界を覗き見ることができるような、魅力ある世界観の作品です。
これらも興味があれば、ぜひお手に取ってみてくださいね。







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