温かな心の交流、喪失からの回復 『すきなものみっつ なあに』

絵本

セカンドチャンネルと私の記事が入り組むようにアップする状態が続いていますが、ご混乱を招いていないでしょうか?(笑)
ここ数回、演劇作品に関する記事が続き、肝心の絵本のレビューが全然書けていませんでした。今日は久しぶりに、最近お気に入りの絵本について紹介できたらと思います。

本日ご紹介する絵本は、『すきなものみっつ なあに』(ウェンディ・メドゥール作、ダニエル・イグヌス絵、山本みき訳、株式会社化学同人、2021年)です。

先日、地元の図書館に行った時、絵本の新刊コーナーに飾られていた本書を見つけました。一目見て、挿絵のカラフルさ、美しさに惹かれ、早速帰って子どもと読みました。4歳になる子どももお話と絵がとても気に入ったようで、毎日のように読み聞かせています。

本書の主人公のティブルは、赤毛の小さな男の子。大好きなおじいちゃんと一緒に遊びたいのですが、最近はなぜかおじいちゃんは彼に目もくれず、庭仕事ばかり。どうにかしておじいちゃんと一緒に過ごしたいティブルは、こう言って誘います。「おじいちゃんの すきな サンドイッチみっつは、なあに。/ ぼくはね、チョコクリームと、きいちごジャムと、チーズいりバターだよ」。
すると、おじいちゃんは…。

「3」、それは、魔法のような数です。1つだと少し孤独で、2つだと対立するように感じることはあっても、3になると不思議とバランスが取れるように感じるのはなぜでしょう。象徴としての三角形や三種の神器、いわゆる「三大◯◯」などを例に挙げる間でもなく、三つのものを取り上げるという考え方は、古今や洋の東西を問わず、広く普及しているようです。
ティブルとおじいちゃんとの繰り広げる会話にも、たくさんの「すきなものみっつ」が出てきます。ここでいいなあと思うところは、一番好きなものだけを教え合うのではなくて、二人がそれぞれ、相手の「すきなものみっつ」を知りたがるところです。大好きな人をもっと深く知って、気持ちを共有して。さりげなくシンプルな会話の中に、そんな二人の深く温かい心の交流が見え隠れします。

ところで、好きなものの選好は、過去の思い出と分かち難く結びついているといえます。ラストで、絵本を読む私たちは、なぜティブルのおじいちゃんが庭仕事に没頭せざるを得なかったか、その理由を知ることになります。二人が星を見上げて語り合うこの場面は、身近な人の喪失を間近に経験したことのある人は、とりわけ深く心に刺さるかもしれません。イラストレーションの光と闇の表現の美しさも相まって、とてもリリカルで心に残る場面です。
この絵本のいわゆる「オチ」でもある最後のシーンは、読み手が小さい子どもであればあるほど、まだ完全に理解するのは難しいかもしれません(現在この本を読んでやっている私の4歳の子どもも、完璧に理解はしていないでしょう)。でも、それでもいいのではないか、と私は思います。隅々まではっきり意味を整合できなくても、成長して年齢や人生経験を重ねていった時に、ああ、あれはこういうことだったのか、とふと過去が腑に落ちる瞬間があってもいいと思うのです。これから子どもたちが経験するであろう少し先の人生、酸いも甘いもあるそんな人生のことを、やさしく詩的な表現で、ちょっとだけ先回りして教えてくれているのだと思います。確かなことは、もうここにはいない人を、ティブルとおじいちゃんがそれぞれの立場で今もなお大切に思っているということ。その温かな描写は、小さな子どもの心にもきっと伝わっているのではないかと思うのです。

この本の作者であるウェンディ・メドゥールさんは、イギリスの絵本作家。英文学を専攻し、英文学や文化理論の研究者でもあるようです。既に欧米圏では多くの作品が出版されているようですが、国内で翻訳されているのは管見の限りまだ本作のみのようです。今後、ぜひ他の作品も読んでみたいですね。
イラストレーションを担当したダニエル・イグヌスさんは、スウェーデン生まれのイラストレーター。日本語訳されている他の作品には、『キツネ 命はめぐる』(イザベル・トーマス作、化学同人、2021年)、『おっこちてきた』(サイモン・プトック作、光村教育図書、2021年)などがあります。どれも素敵なイラストレーションです。

本書のタイトルでもある「すきなものみっつ」は、子どもとの会話でも、はたまた日常生活での友人や同僚との会話にも応用できそうです。相手の「すきなものみっつ」を知ることができれば、その人が少しだけ今より身近に感じられるかもしれません。ちなみにうちの子どもの食べ物すきなものみっつは、「もも、りんご、バニラアイス」で、遊びのすきなものみっつは、「かくれんぼ、人形遊び、絵具遊び」だそうです(笑)。

シンプルな文章と素敵な挿絵で心にふんわりと染み入る絵本です。
ぜひお手にとってみてくださいね。





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